事務局 2010年度年報もくじ

生活指導研究会  2010年度研究会活動のまとめ

          築山 崇(生活指導研究会事務局)



T. 2010年度の活動(20010.3〜2011.2)


(1)全般

 本年度は、2009年度末にあたる3月の例会で、10年度1年間の日程と主なテーマを決めて取り組んだ。また、11月例会は、センター全体の公開研究会として開催した。主な研究の柱は、小中高等学校における子どもたちの状況を、社会経済的背景(「子どもの貧困」の視点も意識して、家庭・地域での様子をとらえる)を踏まえて、生活指導実践の在り方を議論していくこと、学校教育の中で、重点分野となっているキャリア教育、文科省が作成した『生徒指導提要』の内容を検討することの3つであった。

 また、12月のセンター研究集会が50周年記念集会となったために、生活指導分科会でも、生活指導研究会の活動や生活指導実践研究サークルなどの歴史についての議論に取り組んだ。各研究例会の概要は以下の通り。

 キャリア教育の動向をめぐる研究、京生研との連携のため、鴨沂高校の石田先生、田原小学校の谷田先生に会員として継続的に研究会活動にかかわっていただくことになった。また、大学院生、福祉団体の職員など、新しい分野の若手の参加が得られたことは貴重であり、引き続き研究会の組織的強化にも努めていきたい。


(2)研究例会(経過と概要)

■3月13日 (土)

1.キャリア教育の現状について(センター研究集会分科会の継続討議)
報告:石田暁先生(鴨沂高校)
 国立教育政策研究センター生徒指導研究センターが発行している、小・中・高校版のキャリア教育のパンフレット(カラー刷り15ページ前後 同センターのホームページでも見ることができる)を資料に、最近の動向をどうみるかについて報告があった。

 報告では、キャリア教育全体の傾向が、ニート・フリーター対策から、上記のパンフレットにみられるように教育全体の柱になるものとしてイメージされるように変化しているのではないかという見方が示された。ちなみに、小学校用のパンフレットを見ると、教科・道徳・特別活動という指導要領の3領域に「日常生活」を加えて、それらを貫通する軸としてキャリア教育がイメージされている。

 従来、道徳教育の重要性が強調されて、指導要領の筆頭領域として位置づけられていたことを考えると、「変化する社会への適応」を基本理念とするキャリア教育を、規範や徳目による注入的な道徳教育に替えて、教育全体の理念として位置づけようとする流れが、顕在化しつつあると見ることができる。

■5月8日(土)

・「貧困」を視点に交えた、2009年度研究集会分科会の継続討議
報告:「貧困と向き合う学校の『格闘』と『再生』」:槇島中学校・恩庄先生

 以下のような項目で、経済的困窮を背景とした不安定な家庭状況のもとで揺れる子どもの姿、粘り強く親との信頼関係を築いていった経過を中心に報告され、一層困難を増す今日の状況に対抗する実践のかたちが提起された内容であった。   
1.地域・学校の紹介  
2.学年の状況  
3.学校の対応  
4.自治を高める取り組み(全校、学年、クラス「『心を癒す「劇」の取り組み』  
5.課題層のクラスと状況  
6.課題層の家庭、育ちについて  
7.その他の子達  
8.エピソード  
9.最後に

■7月10日(土)

1.  小学校からの報告(話題提供・谷田先生)

 子どもの具体的な状況が紹介されたあとに、報告の最後に課題として次のような内容が示された。
1.リーダーを育てる 
2.クラス遊びを活発にして男女の仲を深める 
3.学力面で課題のある子への支援 
4.中学年の時期をどう豊かに過ごしてきたか
 が、大きな課題になっている。トラブルをどう解決してきたのか、どんな交わりをしてきたのか、高学年的集団づくりの発想にとらわれないで、実践を進める。

2. 文部科学省『生徒指導提要』について(築山)

・概要:『月刊生徒指導』7月号特集「生徒指導提要を読む」を資料に紹介。
・全体的印象について、構成についての違和感がしめされつつ、第6章についてコメントが紹介された。
・生徒指導の進め方が、「T 児童生徒全体への指導」「U 個別の課題を抱える児童生徒への指導」の2部構成とされ、前者に、基本的な生活習慣の確立、校内規律に関する指導の基本(規範意識の醸成)などが含まれ、後者に、少年非行、暴力行為、いじめ、インターネット・携帯電話に関わる課題、性に関する課題、いのちの教育と自殺の防止、児童虐待への対応、家出、不登校、中途退学が位置づけられている。  
・「個別の課題を抱える児童生徒への指導」に位置づけられている、「問題行動」の掘り下げが浅い。

■9月18日(土)  

1.最近の動向をめぐっての意見交換

・「H22児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」9/14
       暴力行為の増加(各紙報道 京都府3年連続 ワースト4位 9/17朝日)

2.文部科学省『生徒指導提要』の内容の検討(第2回)  

 事前の依頼にもとづいて、以下のような分担で各章の特徴的な内容と問題点についてのコメントがあった(コメントの一部を抜粋)。
・1から3章(西浦)
・「自己指導能力」という表現に違和感。
・「校長のリーダーシップ」の項も、文科省の方針を擁護しているが、現実的ではない。しかし、上記の2点を除けば、しっかりした内容である。教科書的説明だが、共感できるところが多い。
・文科省が関わっている割に、「自治」に関する記述もしっかりとしている。ただ、教職員自治・職場自治を否定しておいて、児童生徒に自治能力を育てるのは無理なのだが。
・教育観・発達観などについて、文章的には、しっかりと書いてある。
・思春期・青年期に関する記述も、特に違和感がない。
・発達障害の項についても、「集団づくり・仲間づくり」に言及しており、納得できる  
・2章(石田)  
 2章の内容の主な項目と検討の視点となるキーワードを整理する形で報告された。 検討の視点の中では、例えば、特別活動における生徒指導のところで、「集団としての連帯意識を高め、集団(社会)の一員として望ましい態度や行動のあり方を学ぶ」とされているが、集団の理念、中味が明確でなく、社会の一員としての貢献が強調される内容になっている点が問題。  
・4章(玉井)
 特に「指導体制」の章ということもあるのかも知れないが、図式としての整合性を追って述べられているだけで、まあ、その限りにおいて間違いはないでしょうね、と言う程度の内容だと読んだ。この根底にあるはずの「人間観・発達観」「児童観」「生徒指導観」はどうなっているのかと第1章に目を通したが、なるほどと感じられる「観」は見あたらなかった。この章で述べられていることも、図式の域を出るものではない。  
・5章(倉本)  
 適応主義的な考え方がベースになっている点、カウンセリング理論の紹介が不足している点などが問題。  
・7章(築山)    
 法令に関する章であるにも拘らず、条約そのものはもちろん、子どもの権利についての言及がない点は問題。大きな論点ではないが、児童自立支援施設の目的・役割について、学習指導、作業指導と併記する形で、“生活指導“ということばが使われている点が目に留まった。

3.センター公開研究会(11月28日 日曜日午後)の内容の検討

■11月28日(日)

 公開研究会 テーマ:「改革」のゆれの中に、生活指導の確かな座標軸を! 〜子どもを深くとらえ、子どもの最善の利益を守る実践に学ぶ〜

テーマ設定の趣旨
@ 今日の子ども・学校をめぐる問題状況についての分析を踏まえて、教育行政を中心と 政策・制度的対応の問題点を明らかにする。
Aさらに、今日の生活指導の課題をとらえ問題状況を切り開く実践の方法・内容を探る。 実践報告:「一人ひとりを大切に!」(石川 信 中学校)
 「派手な外見に気分のままに行動するA子と、ネットと漫画だけを頼りに生活するF子と、クラスのつながりを作っていこうと取り組んだ1年間の実践」の報告。二人の変化・成長を、クラスの様子や体育大会・文化祭などの行事を通じて、ていねいに追求していった内容であった。 動向分析:文部科学省『生徒指導提要』に見る指導観(生活指導研事務局より)

■1月22日(土)   

 センター研究集会生活指導分科会のまとめと研究会活動の年間まとめ・次年度計画の検討


U.2011年度計画


 10年度に引き続き、小中高等学校における子どもたちの実態を、今日の社会経済的状況との関連で分析していくこと、小学校から大学まで、教育の大きな柱とされているキャリア教育の動向をとらえながら、青年の自立をめぐる問題として研究を深めていくことを主な課題に、教育・福祉にまたがる実践・研究の交流を深めていくことを目指す。

テーマ

  自治の力を育て人間的自立を目指す生活指導実践・理論の構築をめざして

研究の主な柱

1.生活指導の目的・理念をめぐって
・子どもの実態の正確な把握・分析と子ども観・指導観の探求
・今日の社会・経済状況のもとでの集団づくり
・自治活動の在り方の研究
・キャリア教育の動向に関連して、生徒指導における「社会的適応」概念、発達保障の観点からの検討など 2.歴史に学ぶ      
・生指研30年の歩みの総括   
・京都教研生指分科会の30年の蓄積に学ぶ

研究例会

(原則奇数月 土曜日 午後2〜5時、各会テーマは予定)   

 3月12日(土):中学校における集団づくり・自治活動の検討、
 5月 7日(土):高校における多様な生徒の学力保障・生活指導をめぐって、
 7月 9日(土):歴史に学ぶ(1)、 
 9月17日(土):歴史に学ぶ(2)、
11月26日(土):今日の社会状況のもとで求められる生活指導実践の探求、 
 1月21日(土)センター研究集会総括を含め年間の振り返りと次年度計画議論

会員

 浅井 定雄、石田 暁、大平 勲、恩庄 澄夫、春日井 敏之、北村 彰、倉本 頼一、 高垣 忠一郎、谷田 健二、玉井 陽一、築山 崇(代表・事務局)、 西浦 秀通、野中 一也、 細田 俊史、横内 廣夫

 「京都教育センター年報(23号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(23号)」冊子をごらんください。
事務局 2010年度年報もくじ

              2011年3月
京都教育センター