事務局 2010年度年報もくじ

発達問題研究会 2010年度活動のまとめ

          西浦秀通(発達問題研究会事務局)



T.2010年の活動経過

 2003年には、インターネットや情報機器・道具の普及などと併せて「コンピュータ社会に生きる子どもたちを取り巻く環境」について検討、2004年は「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」、2005年は「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」、2006年は「子どもたちの発達課題と地域環境」、2007年も引き続き「子どもの発達と自然との関わり」に関して、2008年には「人間と自然との相互性」について研究、2009年も「人の発達と進化」をテーマに議論を継続、2010年1月のセンター研分科会では、「子ども観を深める」をテーマに設定、地域・集団・自然をキーワードに「自然の生き物としてのヒトと子ども」などの検討課題も含めて討論、その後も、認識の発達も含めての「子どもの発達と科学的認識」に関する研究・討議の必要性などから、議論を継続した。

 具体的には、2010年がセンター50年ということもあり、「全面発達」を取り上げて、センターの発達に関するこれまでの研究経過を踏まえ、「全面発達の人間」の定義やその条件は、現代においてどのように捉えられるべきなのかなどについて議論してきている。

 また、月例の研究例会での学習や報告者を招いての「発達理論・発達を取り巻く環境」の研究を背景に、また、運営委員会での議論と問題提起を踏まえ、6月26日(土)に公開研究会「地域で育つ子どもの発達−自然教室の実践を通して」を開催、堀井篤(元立命館高校)さんから、永年にわたる奥丹後での子どもたちを育てる地域についてのさまざまな取り組み、とりわけ「たたら製鉄」づくり実践での子どもたちの感動や成長について、またその後の取り組みについての報告があった。

 昨年度の活動の記録は、以下の通り。

1月9日(土):運営委員会(「子ども観を深める――地域・集団・自然をキーワードに」に関しての議論、センター研分科会・春の公開研究会について)

1月23日(土)〜24日(日):センター研(第4分科会担当)

3月6日(土):運営委員会(「人の発達と進化」、公開研究会について) 研究例会(堀井篤さん「続・地域は子どもに何ができるか」)

4月17日(土):運営委員会(「人の発達と進化」、公開研究会について)

5月15日(土):運営委員会(「人の発達と進化」、「センター創立当時の活動から」、 公開研究会について)

6月12日(土):運営委員会(「発達課題と環境および認識」、「センター創立当時の活動から」、公開研究会について、細野武男論文「全面発達の人間像をめざして」)

6月26日(土)午後:第16回公開研究会−−運営委員会(「発達課題と環境および認識」に関して)

7月31日(土):運営委員会(第16回公開研究会総括、地域研公開研について、 公開研究会・センター研分科会について)

9月25日(土):運営委員会(公開研究会について、「今日的な全面発達の問題について」 公開研究会・センター研分科会について) 研究例会(棚橋啓一さん「地域と発達の高次化」)

10月11日(休)午後:地域研公開研参加協力

10月  各支部教育研究集会参加

10月23日(土):運営委員会(第16回公開研究会総括、地域研公開研について、 公開研究会・センター研分科会について)

11月13日(土)〜14日(日):京都教育研究集会

12月4日(土):運営委員会(「全面発達の今日的な課題」に関しての議論、公開研究会・センター研分科会について) 研究例会(中山善行さん「高齢者と全面発達」)

12月25日(土)〜26日(日):センター研(第4分科会担当)

2011年1月29日(土):運営委員会(「全面発達」に関しての議論、センター研分科会総括・春の公開研究会について)


U.2010年度のまとめ

 2010年度も前年度に引き続き、研究の焦点を「思春期の子ども」に合わせ、さらに
(1) 認知的能力
(2) 身体的・運動的能力
(3) 現代社会の中の思春期
という3つのテーマに沿って研究活動を進めることを追求した。

 「子どもたちの発達課題と地域環境」という2005年以来の研究から、子どもの発達の危機的状況が議論されるなかで、子どもたち自身の「様変わり」も指摘されている。「子どもの内面の変容とともに、その居場所(環境)も狭くなって、子どもたちが人工物の中に囲まれて生活をしている状況においては、自然科学観が育ちにくい。心の問題と体の問題を統一的に考えることの重要な時期である」という問題意識を踏まえ、公開研究会やセンター研分科会などの取り組みを通じて、学校内外での子どもたちの様子や発達について、具体的な活動・報告にもとづいた現状理解の討議を行なってきている。

 そして、2010年1月のセンター研分科会では、「子ども観を深める」をテーマに設定、地域・集団・自然をキーワードにこれまでの議論や「人間と自然との相互性」「自然の生き物としてのヒトと子ども」などの検討課題も含めて、関谷健さんが「『手と脳の複合体』の進化とヒトの子の探索・学習活動」と題して研究会事務局として基調報告を行い、続く3つの報告をして頂いた。
@「園内での自然とのふれあいで育つ子どもたち」(池添鉄平さん:たかつかさ保育園)
A「学び合いが生まれる」(野村治さん:綴喜・田原小)
B「高校生の成長を支える組織・集団」(久田晴生さん:府立朱雀高校定時制)

 進化した今日のヒトを生物、また地球環境に生きる動物、更にその子どもとしての環境との関連性を考えるという視点において、
@動物と環境との相互性と相補性、
A人間行動の特質からの検討、
B探索活動と学習の発生、の観点から、
★ 能動性(agency) (コントロールする自己)
★ 予見性(prospectivity)(行動の、未来志向的な性格)
★ 柔軟性(flexibility) (手段の転移可能佳)
★ コミュニケーション上の創造性(コミュニケーションの手段の多様性)
★ 回顧性(retrospectivity) (行動の、過去志向的な性格)
に注目して、議論を行った。

 「自然と進化」を扱ったこともあり、理科教育に関する報告やその関係者の参加が多かったが、「保幼小中高の発達段階・年齢の中で、自然に関わることの大切さや、本物を知ること、また、手足を使った活動の大切さを感じた。そのために、何を取り組んでいくか、今後、創意工夫をしていきたい」という声に象徴されるようにさまざまな発言があった。

 「子どもたちの成長発達と認知的能力」に関しては、研究例会で堀井篤さんに「続・地域は子どもに何ができるか」)を、棚橋啓一さんに「地域と発達の高次化」を、中山善行さんに「高齢者と全面発達」を報告して頂くなど、テーマを絞り、あるいは研究テーマそのものを発展させる側面からも、定例の活動(研究例会+運営委員会、公開研、センター研)を軸に多彩な内容で原則的な研究を継続してきた。

 そして、月例の研究例会での学習や報告者を招いての「発達理論・発達を取り巻く環境」の研究を背景に、また、運営委員会での議論と問題提起を踏まえ、6月26日(土)に公開研究会「地域で育つ子どもの発達−自然教室の実践を通して」を開催、堀井篤(元立命館高校)さんから、永年にわたる奥丹後での子どもたちを育てる地域についてのさまざまな取り組み、とりわけ「たたら製鉄」づくり実践での子どもたちの感動や成長について、またその後の取り組みについての報告があった。

 公開研の総括およびセンター研分科会テーマ設定、あるいは次年度以降の研究内容検討を通じて、「子どもたちの発達課題と地域環境」をめぐる問題や過疎化地域での文化的衰退と発達・教育環境などの課題についても指摘があり、これからの議論が待たれている。

 そして、2010年12月のセンター研分科会では「全面発達の今日的な課題」をテーマに設定、当日は、現代においてさまざまに指摘されている「教育・発達を取り巻く環境の変化や矛盾」、あるいは「発達上のゆがみ」「発達段階における課題」について、これから、どう展望していくのか、などの検討課題も含めた<基調報告「現代における全面発達−その今日的意義と課題」 西浦秀通(研究会事務局)>に続いて、3つの報告をして頂いた。
@「全面発達が保障される場としての学童保育」 溝口晋太朗さん(京都市・たかつかさ児童館児童厚生員)
A「地域と子どもの発達−山科の地蔵盆調査から見えてくる地域の教育力と子ども−」 浅井定雄さん(山科・ふるさとの会事務局長)
B「全面発達と高齢期の発達を考える」  中山善行さん(京都発達研究会)


V.研究に関して

  研究を進めていく上で、以下の視点を確認してきた。

1 発達理論に基づいているか
2 社会的教育的な情勢・状況を把握しているか
3 子どもたちの実態に基づいているか
4 教育現場が求めているものになっているか
5 研究成果の活用の展望

 そして、研究活動を今後どのように社会や教育現場に還元していくのか検討し、研究内容の記録・得られた研究成果を冊子か本にまとめて、組織的な研究を継続していくことになっている。


W.2011年度の活動方針

 2011年度も「思春期の子ども」研究を継続させていくことを確認している。当面、「発達の現代的課題」、および「人間発達の土壌としての学校・地域」「地域は子どもに何ができるか」などについて、定例の研究例会を学習の場として活用している。この間、実務作業のための運営委員会についても、学習討議の場としての研究例会についても、「発達保障」の観点からの学習も含めて議論をしてきており、また、前年までの「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」「ケータイ文化と子どもたち」「子どもたちの発達課題と地域環境」「北欧の教育」「拡張による学習」に関する研究の継続も求められている。

 今後も、「現代の子どものコミュニケーション」「自主活動と社会的発達」「子どもの発達と自然との関わり」「活動理論と教育実践の創造」「人の発達と進化」など、これまでの報告や研究を踏まえ、また会員の意見を広く取り入れながら、学校教育や社会環境など発達をめぐる問題を精力的に検討していきたい。

 加えて、この研究会のあり方を捉え直して発展させようと議論もあり、月例開催を継続している研究会運営や会員組織に関すること、あるいは研究会活動と教育センターとの連携など、多忙化の中で改善・整理していく課題についても、活動の中から議論を深めていくこととなろう。


X.研究会組織体制と構成員

・代表者  宮嶋邦明、築山崇

・事務局  関谷健、西浦秀通 ・運営委員 浅井定雄、伊藤晴美、北村彰、久保田あや子、中山善行、和気徹

・会員   (略)

 「京都教育センター年報(23号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(23号)」冊子をごらんください。
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              2011年3月
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