事務局 2010年度年報もくじ


京都教育センター 年報23号(2010年度)

 -- あいさつ --

「地域に根ざす教育」を対抗軸にして頑張ろう!

                京都教育センター代表 野中 一也



 自殺者が連続して3万人を超え、教師の精神疾患が5千人を超えるという実に異常な息苦しい現実に直面しています。

 近代資本主義社会は、人間的つながりを切断して商品に第一の価値を置いて競争のせめぎ合いを「自由」にさせてきました。その結果、人間的尊厳が疎んじられ、「人間疎外」を生みだしてきました。「人間であって人間でない」という疎外感を生みだしてきました。そして、今や新自由主義的政策は、あらゆる領域において「人間」を「人材」と置き換え、商品価値として扱われるようになってきました。平成になってからはそのスピードを加速させています。生きて呼吸をしている子どもを育てる教育という最も人間的な領域においても、この論理は貫通しています。喜びや悲しみを内面に抱えていてもそれを率直に表にあらわすことは許されません。人間が「疎外」されているのです。

 ただ「いる」だけの「存在」から、「つながり」あって、人間らしく生きられる未来を展望していきたいものです。  京都教育センターが1960年に設立されて50周年をむかえ、昨年12月25日に記念集会と祝賀会を開催いたしました。高垣忠一郎さんが「地域と地球時代を串刺しにして頑張ろう!」と締めくくりの挨拶をしました。「地域と地球時代を串刺し」にする展望こそが私たちが求めているものではないでしょうか。

 京都教育センターは、京教組の教職員、研究者、住民父母のみなさんと協力共同して民主教育を守り育てる努力をしてきました。私は今の時点で改めて「地域に根ざす教育」を深く考察し、そこに新しい意味を込めて、新自由主義的教育政策に対する対抗軸をつくっていく必要があると思っています。

 地域は「いのち」の再生産をするところです。私は自宅で近所の人びとが集まり、窯でお湯を沸かし、産婆さんにとりあげられて産声をあげた、と母から聞かされました。いまは病院でお産するのが一般的ですが、育てるのは中心的には地域の自宅でしょう。地域で遊んで「自由」を学び、自然の美しさ、不思議さ、怖さなども学ぶでしょう。地産地消の大切さも学ぶでしょう。生きるエネルギーと精神的エネルギーを地域から多くいただいて成長するものだと思います。権力は地域を「中央」に対する「地方」としてとらえ、人間を「人材」として能力に応じて「流動化」させます。それが「立身出世」というイデオロギーとなって大きな影響を与えていると思います。

 地域には教材がごろごろこぼれるようにあります。教職員が地域に出かけていくのは困難がともなうと思いますが,子どもは矛盾をいっぱいかかえる地域で育ち、「いのち」を地域からもらって成長するという視点はもっていってほしいと思っています。子ども後ろに親が矛盾を抱えて暮らしているという視点をもって、「いのち、人権、平和」の教育づくりをしていってほしいと思っています。この年報の活用を期待しています。



子どもと教育の未来を切り拓く「力」を育み前進を、教育センターとともに

            京都教職員組合執行委員長 藤本 雅英



  2010年12月25・26日、「京都教育センター設立50周年記念研究集会」・「設立50周年祝賀会」がおこなわれました。それは、あらためて教育センターの教育研究、教育運動における歴史的「重み」と現代、未来にあらたな歴史を刻み始める大きな節目を実感するものでした。「子どもの成長と発達をなによりも大切にする」、京教組、教育センターが貫いてきた活動の基調を今とこれからにさらに太く、豊かに生かすことの大切さを深め合う場ともなりました。

 いま、 運動と世論が教育政策において重要な変化を生み出しています。文部科学省は、30年ぶりに40人学級の見直し、10年ぶりに教職員定数改善計画(案)を発表しました。また10年4月から公立高校授業料無償化が始まりました。こうした動きの中で府教委は、中学校での少人数学級の実施にも足を踏みだしました。夜間定時制高校の学級定員30人にして、39年ぶりに募集定員30人増もはかりました。これら教育政策における一定の前進的な動きの背景には、子どもたちにゆきとどいた教育を求める府民・国民の運動、貧困と格差拡大から子どもを守る運動と世論があることは明らかです。同時に政治を変えたいと願う府民・国民の力があります。

 しかし、一方でそうした新しい動きを押しとどめ、逆行させる動きが強められています。政府は、計画発表した小学校1・2年生の35人以下学級を財政難を理由に1年生分のみを認めるにとどめました。文科省は、今後8年かけて、小・中学校とも1学級の上限を35人(小1・2は30人)に引き下げる方針ですが、財務省は「少人数化と学力向上の因果関係は必ずしもない」と難色を示し、今後のスケジュールは不透明な状況になっています。この間生み出してきた新しい動きを後退させてはなりません。

 改悪教育基本法の具体化として位置づけられてきた新学習指導要領が来年度から小学校で本格実施となります。子どもたちの実態をふまえた教育課程づくり、教育実践が粘り強くすすめられ、一つひとつの学校で教育をめぐるせめぎあいの状況が展開されています。そうした中で、生きづらさや悩みを抱えて大きく変化する子どもと、その背後にある保護者を含めた社会の変化の中で、今を生きる子どもたちの成長を願い、「よりよい教育がしたい」という教職員の切実な願いに応える自主的な研究活動がすすんでいます。青年教職員の自主的な交流、学びあいの場も広がっています。  こうした教育研究活動のとりくみ、「教育共同」、運動と世論をさらに強め広げること、そして政治を変えることに子どもと教育をめぐる「激動」の情勢を切り開く力があります。

 子どもと教育の未来を開くそうした力を京都教育センターとともに育み、しっかりと歩みたいと思います。

 「京都教育センター年報(23号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(23号)」冊子をごらんください。
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