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京都教育センター          2010.10.1

     
教科教育研究会・国語部会通信

         編集・発行 教科教育研究会国語部会(会員用:部内資料)       

              第 44 号


改訂学習指導要領本格実施・小学校新国語教科書によって
現場の国語教育は、どう変わるのか


 各地域での新教科書採択も終わり、それぞれの地域で、来年度の新教科書による国語科指導がどのように変えられようとしているのか、その姿が次第に明らかになってきている。

 これまで、私たちが何度も指摘してきたようこ、それは、

@PISA型学力という名のもとに、言語処理能力の項目を「言語活動場面」としてとりあげ、その訓練・スキルに終始する国語科指導

A愛国心注入教科として、教育全体の道徳化の中核としての「伝統文化の継承・発展」という名目のもとの、「伝統的な言語文化」を、音読・暗唱などの限定された方法で取り込んでいくことの拡大、強化。

がそのふたつの柱である。

 この視点から小学校新教科書の分析を、この通信の前号でも提起したが、その内容だけを分析・検討するだけでは見えないものがある。

 そして、このふたつは「学ばない言語の学習」「読まない説明文教育」「読まない文学教育」「書かない作文教育」として密接に繋がっており、@を徹底することでAがより意味を 持ってくることとなる。

 だとすると、説明文教材や文学教材の多くが新教科書にも残っていたとしても、それは私たちが構想する説明文教育・文学教育が保証されたことでは全くなく、むしろこれまで の国語教育実践が全面否定されていくために使われることになるのではないか、と危倶す る。

 そこで、今、検討しなければならないのは、京都でのこの改訂学習指導要領本格実施・ 小学校新教科書による国語科指導が、教育局や市町村教育委員会によってどのように進め られようとしているのか、現場の国語教育がどう変えられようとしているのか、という視 点からの分析・検討であろう。


 この国語教育を変質させようとする企みは、当然のことではあるが、もうすでに始まっている。京都府全体としてもそれはあるが、教育局が設置されている各地域では、このようなことを進めようとしている。各教育局での「学校教育」での重点重点施策や活動などの具体的なものを、とくに@の視点を中心にみていくと、次のようなものとなる。

丹後教育局 (京丹後市・宮津市・与謝野町!伊根町)

 学校教育として「丹後の学力向上をめざして」 を強く打ち出し、@教材分析の工夫・徹底 A 発問の工夫B考えを育て名書く、話すセ聞く活動 C達成目標の明確化D指導内容申明確化 E個に応じた指導の五点が、「六つの授要改善のポイント」として強調されている。そして、各種委員会・研修会などのとりくみが、昨年度からかなり力を入れてとりくまれている。

l中丹教育局(綾部市・福知山市・舞鶴市)

 テーマでの「『質の高い学力』を育成する授業の充実」を重点としたF学力の充実・向上について」のとりくみを、「組織的な推進」と「『ことばの力』育成」を柱として、ネットワーク会議、推進会議などをつみかさねて、「小・中・高12年間を古都押した指導」として進めている。それは 「推進シート」「実践シート」としてダウンロードでき、具体的に使え、広められるものとしても出 てきている。

南丹教育局(南丹市・亀岡市・京丹波町)

 学校教育において、「基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等をはぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、質の高い学力の育成に努める。」ことを重点課題として、「学力ぐんぐん会議」による「学力ぐんぐんバン ク事業」などがすすめられ、「学力向上プログラム推進部」「授業改善推進部」「読書活動推進部」の三部体制での授業推進となっている。

 とりわけ「授業改善推進部」では、「学力ぐんぐん研究会」で、「活用する力」と「ことばの力」を育成する授業づくりをめざすという取り組みが展開されている。これは、「学力ぐんぐん委員」「学力ぐんぐん研究員」などを委嘱された現場教師のプロジェクトチームが組繊され、公開授業などの活動が進められている。


山城教育局 (宇治市・城陽市・八幡市・京由辺市・木津川市・綴喜・相楽)

 かなり広い地域である山城では、「質の高い学力を育成する授業改善に関する交流・協議jのため の「山城地方学力対策会轟」、「参加者一人一人が「質の高い学力」を育成ずる具体的な方策について、 じっくり考える機会にします!」などとするスローガンでの「山城地方夢・未来教育実践交流会」などがもたれているが、具体的には、局全体というより各市町村でのとりくみとして進められている感がある・


乙訓教育局 (向日市・長岡京市・大山崎町)

 乙訓での「学校教育」の重点目標とされるのは、 「各教科における言語活動の充実」、「学力の向上と 進路希望の実現」、「学習意欲の高揚と学習習慣の確立」、「指導方法の工夫改善」などである。まずはじめに言語活動の充実が挙げられているのだが、ここには「ことばの力の育成」が提示されている。 とりわけ、「ことばの力の育成」は、かなり重点的組織的に進められ、「教育振興プロジェクト」の第一に、「質の高い学力開発」が提示され、そこには四つの部会が設定されて活動するシステムがとられている。それは、@「教師力の伝承」部会」、A「PISA型学力開発」部会、B「読書活動推進」部会、「C校内研修支援」部会である。なお、昨年度の「PISA型学力開発」部会は、今年度「活用する力の育成」部会と改称されでいる。

 ここでは、各部会で、@言語活動を取り入れた、質の高い学力の向上を目指した授業研究を通して、教師力の伝承を目指します。A「パフォーマンス課題とルーブリック」の考え方に基づき、「活用する力」の指導と評価について実践研究を行います。B読書活動を推進するため、学校図書館の活用方法や読書指導の方法等について実践研究を行います。C効果的な校内研修の方法や進め方について研究するとともに、研究実践の交流や情報交換を行い、校内研修の活性化を支援します。としている。

 この部会は、現場教師のプロジェクトチームが組まれ、進められている。

 さらに「教育振興プロジェクト」の第二番目に、「乙訓かがやき校」という名での研究指定校が提示されているが、小学校の六校(向日市3校・長岡京市2校・大山崎町1校)は、「学習意欲の向上と学習習慣の定着、質の高い学力の向上」「全ての教育活動を通して、ことばの力の育成を図る」「『書くこと・話すこと・聞くこと』を中心としたことばの力の育成」「より豊かで確かな国語力の育成〜ことばの獲得、豊かな表現、コミュニケーション能力の向上を目指して〜」「全員が楽しくわかる国語科の授業 〜授業のユニバーサル化を目指して〜」「『ことばの力』を生かす算数教育〜基礎・基本的な知識、技能の習得と数学的な思考力・表現力の育成がバランスよくとれた授業改革」であり、「ことばの力」「国語力」「学力」が中心をしめる。


 さらにAの視点からは、詳しい検証は省くが、「古典の日推進授業」などが、「小中学生が古典の朗読を通して日本語の美しさを感じます。」などとして、それぞれ具体化されている。


  このように見てくると、新国語教科書に取り込まれた二つの視点からの問題点は、具体的な説明文教材・文学教材に、これまでのものが多く残されたりしていたとしても、「授業改善」や「工夫・開発」「指導」などという名目での内容・目標・方法などにわたる「規制」や「統制」がかなり強まってくるという状況になるのは想像に難くない。

 さらに、今、「国語の学力」「ことばの力」といった、国語教育の本質にかかわる論諌を深めていくことが課題となる。そして、国語教育の構造と内容をたしかに提起し、その実践をたしかに進めていくことで、「人格形成=人間的な成長を支える国語教育」をしっかりと進めていきたい。


来年度より京都府下で使われる新国語教科書の採択が行われた。
 その結果、  *宮津市・伊根町・与謝野町・乙訓  東京書籍
           *その他の地域        光村図書

 となった。

 京都も、これまでの三社から二杜となり、それも一社は狭い地域での採択であることからほとんど全域が一社独占に近くなった。

 今後、教科書分析は、より具体的に進められていく必要があるが、それにも力を入れていき、 国語教育実践の全体を見通す提起をしていく必要があると考える。

 各地域や研究会からのさまざまな意見・提起を寄せて頂きたい。


京都教育センター設立50周年記念

第41回 京都教育センター研究集会

 京都教育センターは、今年で設立50周年を迎えます。

 その記念すべき年の京都教育センター研究集会は、下記の要項で開催されます。

日時 2010年12月25日(土)・26日(日)

会場 京都教育文化センター

 現在、とりくみの具体化をめざしての活動が進められています。第一日日(12/25) は全体会、第二日日(12月26日)は、分科会となります。


国語分科会に参加を

 今年も、国語部会は、国語分科会にとりくみ、国語教育の理論と実践についての討議を深めたいと、今からとりくみを進めています。

 とりわけ、学習指導要額の本格実施、それにもとづく小学校新教科書による指導の開始、という状況の中で、今、わたしたちが積み上げてきた国語教育について、さら に論議を深め、自信をもって実践を進め、父母にも広く操起していくことが大切です。

 そのために、今回の国語分科会は、   児童言語研究会(児言研)員長 森 慎 氏

を招いて、「国語教育の現状と課題をどう考えるか」、「私たちの考える国語教育を どう進めていくか」について、提起をして頂き、学びたいと考えています。

 児言研は、文学教育では「一読総合法」を提唱し、全国で多くの実践が広まって います。また、説明文教育では「批判読み」を提唱し、言語教育では、「たのしい日本語の文法」は京都でも1970〜80年代にかけて、多くの実践がありました。これは つい最近刊行された「たのしい文法の授業」として再度集団論議のなかで編集された刊行物として提起がされています。また、説明文教育についても「言語論理教育」 として、メディアリテラシーの教育の視点からの提起もしています。

 このように、国語教育としてひとつの分野だけでなく、幅広くその理論と実践を深め ている自主的研究団体です。

 京都の国語教育・三分野説の立場からも学ぶことが多いと思われます。

 ぜひ、参加ください。

 
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