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京都教育センター          2009.11.15

     
教科教育研究会・国語部会通信

         編集・発行 教科教育研究会国語部会(会員用:部内資料)       

              第 38 号


国語科指導の内容として何が示されているか
   〜全国一斉学力テストのために 「授業アイデア」として提示されているもの〜


 前号で、「全国一斉学力テスト」の「調査結果」としての公表文書に、今回から「授業のアイデア例」が添付されていること、それがこれまでもさまざまなかたちでとりくまれてきているのだが、本格的に「PISA型」の名のもとに国語科指導を言語処理能力に矮小化させ、技能的技術的指導に偏重させていき、国語教育の崩壊への道を突き進むものであることを提起した。       この内容は、今後どのような「内容」が現場で広げられていくのかを厳しく見、対していかなければならないと考えられる。       今号では、それを具体的に検討・分析しくことをめざしたい。

A問題の「アイデア例」

   A問題では、とりわけ低正答率の問題に対して、5項目が添付されている。

      @ローマ字 (1)ローマ字を使って、クイズをする
              (2)ローマ字を使って、しりとりをする
              (3)ローマ字を使って、お気に入りの詩を作る

      A表現の工夫をとらえる
            *表現の工夫が豊かな詩を選んで、様々な表現の工夫や効果について話しあう。(比喩・たとえ、 反復・くりかえし)

      B話し合いを計画的に進める

      C一文を二文に分ける
              (1)文の論理を考え、長い文を一文一文に書き分ける
              (2)主述の関係に気を付けて一文を複数の内容に分けて書く

      D毛筆で書く (1)今年の目標などを毛筆で書く
                (2)案内状などを出すための封筒や宛て名や住所などを書く   というものである。


B問題の「アイデア例

  B問題については、すべての問題について「アイデア例」が添付されている。

      @調査報告文 *全体を見通し、必要な事柄を整理して調査報告文を書く
         ・課題設定−構成表を考える−理由、目的の明確化と内容、方法の決定
         ・結果をカードに書く−「まとめ」の下書き−項目整理、全体見通し−新聞 やパンフレットとして記述 A表をもとに話し合う

      (1)様々な立場の意見をとらえる
          *ディべート
      (2)資料や数値を根拠にして考えたことを話し合う(資料集め−グループ討論−グ ループごとに発表、全体討論)

     B自分の考えをまとめるために読む
      (1)本の内容や筆者の意図を簡潔に押さえ、ノートに整理する(課題設定し、本を 読む−要点まとめ−ノート整理−発表)
      (2)テーマに即して、複数の本や文章を比べて読むなどし、考えたことをまとめて 読書紹介をする(複数の本や文章を読む−内容のメモ−まとめて紹介) C図を使って説明する
          *必要な事柄を整理し、資料を提示しながら説明したり、助言や提案をしたりする
           (課題設定−情報収集−資料選択、作成−発表原稿−短い言葉で書く−説明−聞 き手の助言、提案) といったものである。

 このように見てくると、これは改訂学習指導要領国語科の「言語活動」を具体的な「活動場面」 として提示されたものを想起する。

 改訂指導要領・国語科(小学校)では、指導のための場面や活動として、出されているものを羅列 すると、
    説明・報告・応答・話し合い・紹介・観察・記録・手紙・メモ・音読・抜き書き・発表・感想・演技・ 司会・提案・調査・物語作り・・詩・学級新聞・依頼状・案内状・礼状・引用・要約・図鑑辞典利用・ 助言・討論・推薦・短歌・俳句・随筆・編集・朗読・比べ読み・記事                 などである。

 つまり、改訂学習指導要領・国語科で示された内容が、より具体的に「全国一斉学力テスト」で示され、それがさらに「アイデア例」で提示されたということになる。

 さらに、A問題の「アイデア例」は、その言語活動をすることそのものが提示されているようだが、B問題のそれは、明らかに改訂学習指導要領・国語科で提示された、「次のような言語活動を通して」と「内容」の中に提示された個々の「活動」を意識してのものとなっていることは、これまでの「活動主義」から一歩進めて、国語科指導の内容そのものを規定・規制するものになるであろうことを見落としてはならないと思われる。

 つまり、私たちが考えてきた、「言語の学習」を国語教育の基礎・基本とすることが、「活動にとりくむ」ことに変えられ、さらに「言語教育・説明文教育」「文学教育」「作文教育」として国語教育の構造と内容をおさえてきたものが、「活動における言語処理能力」に矮小化されていくことがここに示されたのではないか、ととらえることが必要となってくるのではないか。



国語教育が大きく変えられようとしている。

  これは、もうすでに現場で、さまざまなかたちで現れている。それを個々の問題としてとらえるだけでなく、「改訂学習指導要領」「全国一斉学力テスト」体制の具体化の流れとしてとらえ、それに対していくことが大切ではないだろうか。

  今後、現場で使われるための新教科書の編集・検定・採択が行われていく。現在進められている補助資料や福読本の配付や指導強要、伝達講習や授業改善の名の下の内容・方法のおしつけなど、全体を見通す視点がほしい。     今や、そのなかで、
       *よりたしかな「言語の学習」で、より体系的・系統的な学習をすすめていくこと
       *確かに読む「説明文教育」として、論理を読みとる時間をしっかりととっていくこと
       *豊かに読む「文学教育」として、読み深める時間をしっかりとっていくこと
       *書くことを大切にする「作文教育」として、自分の思いや意見、体験を書くこと
 が国語教育実践の基本的な視点として求められている。

 これから出てくる国語教科書に、言語教材はもちろん、説明文教材・文学教材がきちんと配列される保障は、何ひとつない。また、作文教材は、技術・スキルだけが提示されることがますます進められていくと思われる。

  それに対して、わたしたちのこれまでの理論的・実践的なつみあげを基にした、「ことばの力」をのばす国語教育は、上記の四点をすすめていくことしかないことを、どれだけ理論的にも実践的にも示すことができるか、とりわり、父母・子どもたちに示し、広めていくかが問われる。

  このように示された言語活動ばかりに偏り、言語処理能力ばかりが強調される内容では、子どもたちの国語の力は絶対に伸びないし、現実に学力の落ち込みは激しいものがあることは、現場では実感されている。だからこそ、今こそ、言語の学習・説明文教育・文学教育・作文教育の実践を進めていくことを職場で提起し、その合意をつくっていくことを「学校づくり」の中核においていくことがめざされねばならない。

 今、そのとりくみをどれだけ進めていくことができるか、問われている。

 

国語部会事務局より

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2009京都教育センター研究集会(第40回)

     日時  2010年1月23日(土)・24日(日)
     会場  京都教育文化センター
     日程  第一日目 (1/23) プレ集会・全体会(講演など)
          第二日目 (1/24) 分科会
                   *国語部会は、国語教育分科会を担当します。

 
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