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京都教育センター          2009.10.1

     
教科教育研究会・国語部会通信

         編集・発行 教科教育研究会国語部会(会員用:部内資料)       

              第 37 号


09全国一斉学力テストの「結果」から 見えるもの・見なければならないこと

 今年度も実施された「全国一斉学力テスト」の「結果」が9月に公表された。一部から点数公開が声高に、そして権力的に出されて、その動向などに目が向けられるなかで、私たちが見ていかねばならないことは、やはり「国語教育はどうなっていくか」ということだと強く思われる。

1.「結果」の内容

 その結果は、次のようなものであった。
           国語A       問題内容                 正答率  無答率
                1一(1) 漢字の読み(混雑)            95.2  2.1
                  一(2) 漢字の読み(移る)            91.2  1.7
                  一(3) 漢字の読み(採集)            80.1  2.7
                  二(1) 漢字の書き(病院)            76.3  5.8
                  二(2) 漢字の書き(賛成)            78.4  8.7
                  二(3) 漢字の書き(運ぶ)            80.7 10.0
                 2  1  ローマ字の書き(tabemono)      69.5 11.7
                    2  ローマ字の書き(kusuri)         45.8 19.1
                 3  ローマ字の読み(happa)            52.2 29.1
                 3     ハガキの表書きの場所          67.1  6.3 4
                   ァ  実験報告文の小見出し           86.2  0.8
                    ィ  実験報告文の小見出し           94.8  0.8
                    ゥ  実験報告文の小見出し           93.9  0.9
                 5     文章(文学)の工夫をとらえる       58.8  0.7
                 6     図鑑の内容をメモを書く           78.8  4.9
                 7     司会の進め方の良いところをとらえる    68.2 15.1
                 8     一文を二文に分ける(接続語 ので→だから)15.0 29.9
                 9     毛筆の下書きの注意点をとらえる      29.2 33.1

 2007年から指摘されていたように、「知識」(A問題)と「活用」(B問題)とに分けての設 問で、「『知識』は充分だが、『活用』は不十分」という「結果」が出るように設定されていることから、 今年もそれが言える「結果」であるとは言える。

            国語B       問題内容                          正答率  無答率
                 1一    報告文のメモ(書かれている内容の項目)        11.5 20.7
                  二    報告文で分かったことを書く(三つの条件に合わせて書く)17.8 12.5
                 2一    話し合いの意見を二分(三人の意見を二分)       75.6  3.0
                  二    自分の意見(二つの条件に合わせて書く)        25.9 11.6
                 3一    書き方の工夫(「はじめに」の表現)           56.3  8.8  
                 二(1) 自分の意見まとめ(筆者の考えに合わせてまとめる)   62.8 11.6
                  二(2) 自分の意見まとめ(条件に合わせて書く/書き出し指定) 51.1 16.3
                 4一    作戦カードの読み取り(ボールを渡す順番)       86.2  6.9  
                  二 ァ  作戦カードの説明(図を解説)             57.5 13.3  
                  二 ィ  作戦カードの説明(図を解説)             62.2 15.7

2,何が、どう問題になるのか

 このような問題内容をどのようにとらえるのかについては、前号で5点にまとめて提起した。そ れは、

@ 「知識」と提示されたものがまったく貧しい内容であることの再確認
A 国語教育の「基礎・基本」が、「言語処理能力」に矮小化されていく
B 「活用」とは、場面設定を卑近な生活次元に下ろし、その言語処理に狭めたもの
C 国語教育の「解体」が確実に進んできていることに危機感をもつべき
D 「PISA型学力」としても破綻したもの である。

 それは、「結果」が公表され、「点数」がより詳細に公表されることになっていくと、より強調さ れていくこととなるだろう。また、より強くその傾向が現場を覆うこととなると思われる。

 この問題内容は、もはや国語教育の内容と構造を基準として分析するに値しないものである。だ から端的にいうと、これが国語の学力を測定し、その課題を明らかにするものではないといわざる を得ない。わたしたちは、これまでからこの「全国一斉学力テスト」国語問題は、その内容をこそ 問題にすべきだと提起してきたが、そうでないと、あたかも正しく測定できているかのように装っ て「点数」ばかりを問題にしていき、国語教育を意図的に歪めていくこととなる。

 正答率を見ると、それが50%を切っているものは、A問題では18問中3問、B問題でも10 問中3問ある。それを60%とすると、Aでは5問、Bでは6問となってしまう。この数はかなり 多い。 3,さらに、状況は、今  その「結果」をもって、「点数を上げろ!」という「脅迫」はさらに強まってきている。

 その低正答率の内容を見ると、B問題でそうであるように、まさに「言語処理能力」の瑣末な技 術的技能的な問題である。その「点数」をあげるとなると、その瑣末な技術的技能的な訓練をして いくことしかない。本来は、国語教育の内容と構造をしっかりとおさえた実践を進めていくことで、それを応用し、活用していく力をつけていくのであるが、あまりにも瑣末で断片的な技術的技能的 な問題は、それでは遠回りになりすぎるということになってしまうだろう。

  これは、「学力」が意図的に歪められてとらえられ、矮小化されていくことが、本質をおさえ学力 をつけていく教育実践を、子どもからも教師からも遠ざけてしまうこととなってしまうという状況 を生み出してしまうと言えるのである。

  さらにこのことを強く感じさせるのは、「点数をあげろ!」と「脅迫」されている地域では、いわ ゆる「過去問」といわれる、この「全国一斉学力テスト」の問題の類似問題が、インターネットを通じて簡単に入手できるようになっていること、その問題数が膨大なものであり、それをかなり多くの学校で使うとりくみがされていることすら、研究会で報告されている。

  そうであれば、それは「国語」学習つまり国語の授業時間にとりくまれるのであろうから、国語教育は、かなり技術的技能的問題の訓練に費やされるのだろう。つまり、国語教育は、すでにその「解体」ともいうべき状況はすでに進んでいると思える。

  こうした状況は、全国的に広がっていくことが予想される。それは、学習指導要領・国語科の改訂によって具体化されていることを見ることが出来るが、それにくわえて、今回の「全国一斉学力テスト」の「調査結果」の公表の文書に、とりわけ正答率の低かった問題、無答率の高かった問題の「分析」の末尾に、「授業のアイデア例」が添付され、具体的な指導法や内容が記されているページがあることからも、より具体的なとりくみが進められていくことが分かる。

 具体的なものとしては、
A問題では、
・ローマ字の指導(2−2)  
・例1/ローマ字を使って、クイズをする。 例2/ローマ字を使って、しりとりをする。例3/ローマ字を使って、お気に入りの詩を作る。
・表現の工夫(5)    
・複数の詩を読んで、感想を述べ合う 
・比喩や反復などに着目、ノートに書き出す 
・ノートに書き出した表現の降下を話しあう 
・感想などの交流
・司会の進め方(7)
・グループにおいて話し合いの仕方を学ぶ   
・一文を二文に (8)   
・長い文を一文一文に書き分ける 
・主述の関係に気を付けて一文を複数に分ける
・はがき/毛筆(9)   
・今年の目標などを毛筆で書く 
・案内状などを出す封筒に表書きする

  というものであり、B問題では、すべての問題についての「授業アイデア例」がついている。これで状況はさらに悪化していくだろう。

 このような状況に対して、何を提起し、何に取り組んでいけばいいのかを広く論議していきたい。

 

国語部会事務局より

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