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京都教育センター          2009.4.25

     
教科教育研究会・国語部会通信

         編集・発行 教科教育研究会国語部会(会員用:部内資料)       

              第 36 号


「全国一斉学力テスト」国語問題  その内容の批判的検討を

 これまで二年間実施されてきた「全国一斉学力テスト」は、「『学力』とは何か」という、基本的な問題が検証されることなく、その「結果」が無条件に子どもたちの「学力」であるということを前提として、現場教師への攻撃と「結果」の「公開」を強要する動きだけが進み、「塾」や「ドリル・プリント」などを売り、儲けようとする『教育産業』ばかりが大きく膨らむという状況となっている。それは、テストの「内容」がほとんど検討されることなく恣意的な論議が意図的に進められていることによることがもっとも大きな問題であることを、私たちは何度も指摘してきた。だからこそ、三年目・三回目となる今回の国語問題についても、早急に批判的検討を進めていくことが課題となるのではないだろうか。そのためのいくつかの視点、問題をあげてみたい。

国語問題の概要

 今回の国語問題の概要は、次の通りである。
  A問題 1 漢字の読み @こんざつ(混雑) Aうつる(移る) Bさいしゅう(採集)
        漢字の書き @病院       A賛成      B運ぶ
      2 ローマ字の書き・読み  @kusuri Atabemono Bはっぱ
      3 葉書の表書き @相手の住所 A相手の名前 B自分の住所 C自分の名前
      4 報告文    @方法 A予想 B結果
      5 物語の一部の文章表現の工夫 (菓子作りの失敗の様子をたとえを使って)
      6 図鑑のメモを、図鑑の中の言葉を使って書く
      7 話し合いでの司会の良さを説明する (決めるための二つの条件まとめ)
      8 「だから」を使って二つの文に書き直す (接続助詞の「ので」を接続詞に)
      9 毛筆作品を「文字と行の中心」について評価する
                                  *A問題は、20分配当。

  B問題 1 記事を読んで書いた報告文
        @ メモの一部の内容(項目)を書く
        A 三つの条件に合わせて80字以上100字以内で書く
      2 調べた資料をもとにした話し合いについて
        @ 川口・松山・村田の意見をABに類別する
        A Aの意見に立つとして、二つの条件に合わせ60字以上80字以内で書く
      3 マナーに関する本の「はじめに」と「おわりに」を読んで考えをまとめる
        @ 「はじめに」の第1段落の表現の工夫を選ぶ(4択)
        A 筆者の考えをノートにまとめた一部を読む
         (1)「知識五〇点、行動五〇点」を自分の言葉で書きかえる
         (2)「もうワンランク上のむずかしい点」を、60字以上80字以内で書きかえる
      4 「バスケットボールの作戦図」を読む
        @ ボールを渡す順を読み取る(西村→A→西村→B)
        A せめ方を読み取る(次に、□。それから□。)
                                  *B問題は、40分配当

国語問題の分析の視点

 このような国語問題をどのように分析していくのか、その視点をどう設定することが必要なのだろうか。これをしっかりととらえることが大切である。

 この「全国一斉学力テスト」を的確に分析していくためには、これが三年目の実施であることをふまえて、これまでの視点となることを整理していくことが必要だろう。

 京都教育センター国語部会では、これまで、この「全国一斉学力テスト」国語問題がどのようにとらえられねばならないのか、提起し続けている。それは、以下の点である。  2007年度は、「知識」と「活用」というテスト構成が提示されたことについて、国語教育の構造をおさえた観点から、その内容が「知識」とされた国語教育としての「基礎・基本」がたいへん貧しい内容であること、そしてさらに「活用」という観点が、現行学習指導要領・国語科の「活動主義」「言語技術教育」が、日常の生活場面に歪曲されたものであることに批判の観点がおかれなければならないことを指摘してきた。

 さらに2008年度は、「知識」と「活用」がその区別がなくなるようなA問題のB問題化、つまりほとんどすべての問題が、「活用」の名の下に「言語処理」ばかりをめざすものとなったこと、そしてそれは改訂学習指導要領・国語科の内容と強く連結し、その「愛国心注入教科」と「PISA型学力」の絶対化、すなわち「国語の学力」の矮小化がはっきりと具体化されたことを指摘せざるを得ないものであった。

 2009年度は、それをおさえて、何を視点としてもたねばならないのであろうか。それは、次のようなものではないだろうか。

@ 「知識」と提示されたものは、まったく貧しいものであることの再確認

 07テストは、「漢字」、「文法」として「接続語」と「指示語」、「文構成」が示されたが、これは学習指導要領・国語科の「言語事項」に示されたものに限定されている。したがって、問題となるのは、それ以外の「表記・文字」「文法(品詞・構文)」「語い」の問題がないことである。つまり、学習指導要領・国語科の「言語教育」の極めて貧しい内容は何も問題にされずに、その「結果」がよしとされたことを問題にしなければならないのである。

 08テストは、それが「漢字」のみとなり、07テストでの指摘が重要なものであったことを立証したものとなった。  さらに09テストは、「漢字」以外に「ローマ字」が入ったが、極めて簡単な問題である。それは、07テストでの指摘を覆すものではない。

A 国語教育の「基礎・基本」が、「言語処理能力」に矮小化されていく

 @で指摘したことは、そのまま国語教育における「基礎・基本」の崩壊につながる。国語教育の基礎・基本となるのは、言語の体系や系統、法則について学び、それを「ことばの力」の土台としていくことしかない。それが、「葉書の表書き」や「報告文の構成」「メモの取り方」などという、「技能・技術」としても瑣末な「言語処理」に矮小化されては、『基礎・基本の崩壊』と指摘せざるを得ない

 07年テストで懸念をもち、08年テストで明らかになったものは、09年テストでさらにはっきりしたものとなったと言っていい。

B「活用」とは、場面設定を卑近な生活次元に下ろし、その言語処理に狭めたもの

 この傾向について、一部は「実用化」という評価をしたが、これらが本当に「実用」としての内容なり方法をおさえていると言えるだろうか。

 どこかに会議で、「プレゼンテーションができない」「報告・連絡・相談などの力が不足」などという、国語教育がまるで経済活動を進める機械の歯車としての人材や能力をつけるためのものであるかのように考えての、それらの具体化をしたとしか考えられないものになっていることは、この三回のテスト問題内容が示しているが、その視点からみれば、それへの批判はもっとも重要であると考えられる。

C国語教育の解体は確実に進んでいることに危機感をもつべきではないか

 それは、当然、これまで私たちが積み上げてきた「言語の学習」「説明文教育」「文学教育」「作文教育」という国語教育の構造と内容をおさえての、子どもたちに「ことばの力」をつけ、人間的成長=人格形成をめざす国語教育の否定であるととらえるべきではないか。

D「PISA型学力」としても破綻したもの

 08年テストでは、国語問題の内容と構成が、改訂学習指導要領・国語科で示されたものと相まって、その「絶対化」と「偏重」が示されたが、09テストでは、それすらが形骸化・形式化し、PISA調査が明らかにした日本の子どもたちの「主体的に理解」することと「主体的に表現」することをまったくスポイルし、その形式だけを無理矢理問題形式にあてはめようとしたものであることが明白となった。

 これには、さすがに「形式化が過ぎ、これで国語の学力が測れるのか」という批判が、識者と言われる人達からも出始めている。

さらに深い分析と批判を

 概括的な視点をいくつか挙げたが、これらは今後、もっと詳細に分析し、実践的な批判をしていかなければならない。国語部会としても総力をあげていきたい。

 
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