トップ ひろば ひろば136号
チャレンジを続ける保育者

井手 幸喜
(京都保育者運動連絡会)
 
「荒れる」「キレる」子どもたち
 
 
 今、保育現場では「大変さを背負った」子どもたちの話題に事欠きません。教育関係者からは、小学校の「学級破壊」にもつながる「荒れる」「キレる」保育園児としても注目されています。
 
 これらの新しい課題に対して、教育学や心理学などを専門とする研究者の協力も得ながら、子どもの「荒れる」「キレる」行為をどう解釈するか、要因をどうみるかというよりは、課題に直面しながら、新たな保育のあり方を模索している保育実践に注目し、その実践に学びながら課題にせまる、という研究も始まっています。
 
 例えば、それらの成果は『子どもの「変化」と保育実践−「荒れる」「キレる」をのりこえる−』(保育研究所編、全国保育団体連絡会発行、二〇〇三年二月)等に集約されていますので、詳細はそちらを御参照下さい。
 
 LDやADHDなどの、軽度の発達障害による行動上の問題として特定できる場合は別として、「荒れる」「キレる」といわれる子どもを、保育実践のなかで、「いままでの保育で対応できない子どもたち」あるいは「大変さを背負った子どもたち」「保育が難しい子どもたち」と呼んでいます。「荒れる」「キレる」という表現では、子どもの側に責任を転換しかねない、さらには「荒れる」「キレる」では、幾つもの要因が絡まって起きている個々の事態を正確に捉えることができないし、センセーショナルすぎる、そのような理由からの表現です。
 
 
子どもを育てる力が変わった
 
 
 確かに、抑制と興奮のバランスをコントロールしている大脳前頭葉の、かつてのような自然成長が望めなくなった、ということに子どもの「大変さ」を求める見解もありますが、「子どもが変わった」というよりは、「子どもを育てる力が変わった」ことによる歪みが子どもたちに及んでいる、という見方が一般的です。そしてその背景には様々な要因があります。特効薬がないだけに子ども一人ひとりにおきている歪みを是正していく、その実践が保育の現場では始まっています。
 
 「二歳児のような三歳児」、はたまた「感情的で衝動的、そして幼い」「あきっぼく持続力がない」「自尊感情や自己肯定感が育っていない」等の指摘。
 
 これまで経験したことがない子どもが保育の現場に現れてきているのは事実で、原因はいろいろあるのだろうけど立ち止まっているわけにいかない、何らかの手立てを考えなければならない、そんな現場の声をいくつも聞きます。
 
 
最後の砦として
 
 
 確かに、子育て支援など、親に育児力をつけていく取り組みは様々なかたちで始まってきてはいますが、それとて親の生活を考えてみた時、なかなか子どもの問題を切り出せない。なかには、うまくいかない保育実践の全てを保育者自身が背負ってしまう、そんな事例さえ聞きます。
 
 子どもの大変さにはそれなりの背景が一つひとつにあります。親や家庭が抱える生活上の問題も含めて考えざるを得ない場合など、簡単に解決できるはずもなく、日常の保育で、クラスの他の子どもとの関係を考えながら、設定保育の内容なども考えながらでは、大変な子どもとの信頼関係も築いていけないのが現状ではないでしょうか。大変さを背負った保育者は子どもを受け止めていく「最後の砦」として、大変さを背負いながらも、子どもの大変さからの保育の見直しを始めて来ています。

 
遊びの基盤が崩れている

 
 自己主張を子どもの共感につなげることが課題とされている二歳児。三・四歳児でパニックを起こす子どもたちへの手立ての一つとして、自己主張を取り戻させるため、保育園に自分の好きなおもちゃを一つだけ持ち込んでいいという挑戦も始まっています。モノへのこだわりを通して、主張すべき自己を育てるという実践です。
 
 幼児期に育つとされる自己をコントロールする力、ごっこ遊びなどを通して「つもり」が通じ合い、遊びが成立する。しかし現実の家庭や地域ではごっこ遊びの基盤がくずれ、遊びのイメージが読み取れなくなつて来ている。それでは読み取る手立てをどう作るか、「たのしい遊びを保障する」ことへの具体的な模索も始まっています。
 
 
子どもの発達に感動して
 
 
 保育運動のなかでは、子どもを真ん中にして親と保育者が手をつなぐ、そのことの大事さが主張されてきましたが、保育をおこなう側からいえば、子どもが変われば親も変わる、子どもの発達を通して親の感動と成長を引き出す。これまで意識的にそのことが追求され、実践されてきましたし、保育をおこなう主体として、このことへの志向はこれからも正当性を持ちます。
 
 親や家庭の状況を理解し、子どもと関わりたくなる条件をどう作っていくか、保育所保育での最低基準が改善され、社会からも課せられてきている課題へ取り組むための保障が急務の課題です。
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