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126号
【特集「解読『総合的な学習の時間』──実践にあたって考えたいこと」】

特別企画 検証・御所南小学校の指定研究

情報公開で明らかになったこと
──御所南小学校の指定研究(総合的な学習の時間)への疑問


本誌編集部

地域の声から

 過去2回本誌は、御所南小学校の文部省指定研究(総合的な学習の時間)をとりあげてきました。本誌のホームページでもその一端を紹介しています。うれしいことに、同小学校の地域に取材に入ると、「ホームページで見ましたよ」の声も聞かれました。幾人かの親や住民の声を聞くなかで、つぎのような疑問が出されてきました。
(1)「うわさでは、御所南小学校の電気代などの公共料金はものすごい額にあがっているとのこと。たしかに、エレベーターとか屋内プールとか他校にない設備もあるし、また、指定研究がはじまってから夜遅くまで先生たちが学校に残って、会議や教材準備に追われていると耳にしています。不夜城とも言われていますよ。いったい、いくらくらいかかっているのですか?」
(2)「御所南小学校は、他校よりも先生の数が多いと聞きますが、そうなんですか?また、先生の異動も多いとのうわさですが。どうなんでしょう?」
(3)「研究発表会(1999年11月)には、『かがやき』という本を販売していましたが、学校で公のお金を使って研究し、それを本にまとめて販売するというのは、理解できません。本当のところは、どうなっているのでしょうか?」

本誌編集部、公文書公開請求に乗り出す

 本誌編集部は、「こうした地域の声をそのままにはできない」と発行人の小林幸男(立命館大学名誉教授、京都教育センター代表)を中心に、弁護士の小笠原伸児氏(京都法律事務所)の協力をえて、京都市情報公開条例にもとづく公文書開示請求をおこないました(本年2月22日)。その結果、京都市教育委員会から公文書開示と情報提供があり(3月16日)、上記3点に対して、一定の情報を得ることができました。
 これらの公文書や情報をもとに、編集部の見解や疑問を明らかにしておきたいと思います。

1,200万円を超える光熱水費

 わたしたちは、1999年度(指定研究3年目で総括的な研究発表会がおこなわれた年度)における光熱水費について、御所南小学校と同規模(20学級)の小学校9校のものを教育委員会から情報提供を受けました(資料1)。
 もちろん、電気、ガス、水道の使用状況は各学校の事情があるとは思われますが、御所南小学校では電気代、ガス代が著しく多く、「不夜城」状態を裏づけています。また、エレベーターや屋内プールなど、ランニングコストを十分に考慮されていない同校の施設・設備の問題点も浮かびあがっているように思われます。


資料1 京都市教育委員会が提出した資料のコピー

教職員の配置状況はどうか

 1999年度の御所南小学校には34名の教職員がいます。そのうち通常の配置基準にうわのせした加配教員数は5名(内訳は、ティーム・ティーチング2名、その他3名)となっています(京都市教職員組合調べ)。一般的には教職員配置数が多いのは喜ばしいことですが、同規模の上記9校のうち、御所南小学校以外は、加配教員数は0〜2名であり、研究開発のためとはいえ、あまりにも不公平です。もともと教育における研究開発とは、特殊なものを開発するためではなく、どの学校にも通用する一般性を追求したものであるべきでしょう。こうした優遇された条件のなかで開発されたものは、それ自体、一般性にとぼしいと言うべきではないでしょうか。
 教職員の配置状況については、もう一つ疑問に感じることがあります。それは、指定研究の期間の教職員の他校への異動が多いのではないか、ということです。
 京都市立の小学校では6年の勤務で他校に異動するのが一般的です。教育委員会の情報提供によれば、指定研究中の御所南小学校の教職員の、同校での勤務年数は下のようになります(資料2)。
 各年度の転入教職員はこの4年間で24名ですが、転出教職員は総数の増員を考慮すると21名と考えられます。統合による新設の小学校であるので、6年経ての異動はないにせよ、あまりにも激しい異動ではないでしょうか。これも研究開発における一般性を欠いているように思われます。

資料2 御所南小学校教職員の同好での勤続年数(情報提供資料をもとに編集部が作成)
年度 教員の勤続年数の内訳(名) 転入(名) 合計(名)
1997 3年目=26 1年目=7 7 33
1998 4年目=21 2年目=6 1年目=6 6 33
1999 5年目=19 3年目=5 2年目=6 1年目=4 4 34
2000 6年目=13 4年目=5 3年目=6 2年目=4 1年目=8 8 39

疑問の多い『総合的な学習「かがやき」』の出版

 さて、もっとも疑問が多いのは、京都市立御所南小学校編『総合的な学習「かがやき」─新しい教育課程の創造と実践』(株式会社・教材研究所発行)の出版です。1999年11月26日の同校の研究発表会に資料として3000円で販売されたものです。発行日は、実に研究発表会と同じ日です。著者は、京都市立御所南小学校研究同人となっています。
 京都市教育委員会によれば、この書籍は学校が作成したものではなく、著者=研究同人とあるように、私的なものであるようです(京都市教職員組合による)。もしそうであるとすれば、いくつかの疑問が生じてきます。
 第一に、研究発表会当日、資料代として3000円を領収したとする「領収書」の受けとり人は、「京都市立御所南小学校長 ○○○○」となっており、学校長が私的な出版に便宜をはかったことになります。
 第二に、この書籍とは別に、文部省などに提出された京都市御所南小学校『平成11年度研究開発実施報告書』(平成12年3月発行)があります。この二つを比べると、つぎのことに気がつきます。
 『報告書』の「研究開発の概要」の章と「研究開発の内容」の章の中の「新しい教育課程」は書籍『かがやき』のひきうつしであり、また、具体的な実践を書いた部分は書籍『かがやき』の続編ともいえるような性格をもっています。したがって、研究開発の実践は書籍と『報告書』を読んで全体像が分かるようになっています。
 もし、書籍『かがやき』が私的なものであるとすれば、『報告書』は一部は私的なものからの流用であり(執筆者は同じですが)、他の部分は私的なものを前提にしてこそ意味あるものとなる、と言わなければなりません。さらには、研究開発のための公的資金を使って研究し、そこから私的利益を得ているのではないか、との疑念さえ生じるものです。

1999年11月26日発行の『総合的な学習の時間「かがやき」─新しい教育課程の創造と実践』の表紙。京都市立御所南小学校編と明記してある。 『平成11年度研究開発実施報告書』の表紙。背表紙には「生涯教育を支える自己教育力を身につけた子どもの育」(第3年次)とある。

指定研究のあり方を問う

 私たちは、一般的に、公立学校が学校として書物を出版することや、その学校の一部の教職員または個人が書物を出版することを否定するつもりはありません。それらは表現の自由に属することです。
 しかし、今回の御所南小学校の問題はそういう性質の問題ではありません。それは、文部省のものであれ、教育委員会のものであれ、指定研究のあり方に深く関わる問題です。およそ研究は、それに関心のある方々に資料を提供し自由な批判をうけてこそ前にすすむものです。したがって、どのような制約もなく資料を入手できることが前提であり、その資料は大学の紀要のように非売品であるべきでしょう。ましてや、公的資金を使った研究の場合には、その発表会で参加者に無料で資料配布することが大前提でしょう。
 1999年11月26日の御所南小学校の研究発表会は、(財)国立京都国際会館を一会場としておこなわれました。その支出額は公文書開示によれば、134万5,595円にのぼります。さらに、それにパネリストなどの交通費や謝礼も加わります。
 このような派手な演出ではなく、実質的な研究を推進することこそ、研究開発の名に値するのではないでしょうか。

(文・構成/神谷栄司)
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