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発達問題研究会 2007年度報告と2008年度方針
 
西浦 秀通(発達問題研究会)
 


1. 2007年の活動経過

 2003年には、インターネットや情報機器・道具の普及などと併せて「コンピュータ社会に生きる子どもたちを取り巻く環境」について検討、2004年は「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」に関して、2005年は「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」に関して、子どもたちの文化という視点から学習と議論を重ねてきた。2006年も、引き続き「子どもたちの発達課題と地域環境」に関して研究、2007年もその議論を継続した。具体的には、1月にセンター研究集会にて地域研との合同で分科会を担当、「子どもにとってはすべてが育ちの場」と題して、人間発達の土壌としての学校校・地域についての議論を深めた。

 また、月例の研究例会での学習や報告者を招いての「発達理論・発達を取りまく環境」の研究を背景に、また、運営委員会での議論と問題提起を踏まえ、6月23日(土)に公開研究会「奥丹の地域活動−地域は子どもたちに何ができるか−」を開催、堀井篤(元立命館高校)さんから、永年にわたる奥丹後での子どもたちを育てる地域についてのさまざまな取り組み、とりわけ「たたら製鉄」づくり実践での子どもたちの感動や成長についての報告があった。

 公開研当日は、続いて向陽高校の和気徹さんが、学校での子どもたちの自然観察活動について報告、とりわけタンポポ調査などの結果をふまえ、外来種の影響で日本種に遺伝子的混合が起こっている危険性などについて強調した。最後の報告として、地域研の棚橋啓一さんが、子どもの発達と地域の果たす今日的役割について、自分が関わった子どもプール開設経験も含めて報告、子どもの発達には、子どもの発達課題に則した活動を、その能力をすでに獲得している大人や指導員と共に、自主的活動として展開させる必要があると話した。

 討論では、地域が果たせうる可能性や、課題などについても交流された。9月の地域研主催の公開研究会「地域社会で育つ子どもたち」においても議論が継続された。

 また、「発達の現代的課題」をより広い視点から俯瞰することを目的として2005年度秋から取りくんできた「北欧の教育」研究を継続した。2年連続開催してきた教育研究会は、独自には行わず、9月のセンター主催公開研究会[講演『PISA型学力』を検証する:「リテラシーと学力」松下佳代(京都大学)さん]に合流した。


2007年度の活動の記録は、以下の通り。

1月13日(土):研究例会(冬季研分科会報告者を迎えて、前年度活動総括、研究の方向性)
1月27日(土)〜28日(日):センター研(第4分科会地域研と合同で担当)
2月10日(土):運営委員会(センター研分科会について、「発達課題と地域環境の視点」について、公開研究会について)
3月10日(土):運営委員会(「発達課題と地域環境の視点」について、公開研究会について)
5月12日(土):運営委員会(公開研究会について) 研究例会(中山善行氏「奥丹の地域活動−地域は子どもたちに何ができるか−」を深める−活動に参加した子ども達とその後の様子) 運営委員会(「発達課題と地域環境の視点」について、公開研究会について)
5月26日(土):運営委員会(「発達課題と地域環境」について、公開研究会について)
6月23日(土)午後:第11回公開研究会 7月7日(土):運営委員会(第11回公開研究会総括・公開研究会「北欧の教育シリーズ」についての検討)
8月18日(土):運営委員会(第11回公開研究会総括、「北欧の教育シリーズ」について)
9月9日(日):センター公開研究会[講演『PISA型学力』を検証する:「リテラシーと学力」松下佳代(京都大学)さん]
9月15日(土):地域研公開研究会「地域社会で育つ子どもたち」
10月6日(土):運営委員会(「地域で育つ子ども」に関しての議論、センター公開研究会「リテラシーと学力」についての議論)
10月27日(土):運営委員会(「発達課題と地域環境」に関して、センター公開研究会「リテラシーと学力」についての議論)
10月  各支部教育研究集会参加
11月10日(土)〜11日(日):京都教育研究集会
11月17日(土):運営委員会(「発達課題と地域環境」に関して、センター研分科会について)
12月8日(土):運営委員会(「発達課題と地域環境」に関して、センター研分科会について)
12月22日(土)〜23日(日):センター研(第4分科会担当)


2. 2007年度のまとめ

2007年度も前年度に引き続き、研究の焦点を「思春期の子ども」に合わせ、さらに (1)認知的能力 (2)身体的・運動的能力 (3)現代社会の中の思春期 という3つのテーマに沿って研究活動を進めることを追求した。

 また、「子どもたちの発達課題と地域環境」という2005年以来の研究から、子どもの発達の危機的状況が議論されるなかで、子どもたち自身の「様変わり」も指摘されてきた。子どもの内面の変容とともに、子どもたちの居場所(環境)も狭くなってきており、「どうして外で自然に触れて遊べなくなったのかをきちんと見極めること」が必要だという認識から、地域研との共同の取り組みや議論を重ねた。

 その中で、地域での子どもの姿の希薄さが気になること、学校教育限定ではなく子どもの生活全体を見直すこと、与えられた「体験学習」ではなく子どもたち自身の好奇心や意欲を喚起する場をどうすればつくることができるのか、といった問題意識を踏まえ、公開研究会やセンター研分科会の合同などの共同の取り組みを通じて、学校外での子どもたちの様子や育ち(発達)について、具体的な活動・報告にもとづいた現状理解の討議を行なった。

 1月のセンター研分科会「人間発達の土壌としての学校・地域」では、三上泉さん(南丹・八木小)浅野明日香さん(左京・むぎわら少年団指導員)森賢吾さん(大山崎・チャレンジクラブ指導員)に報告して頂いた。子どもをめぐる環境は大変厳しいものになっているが、子どもたちは毎日一生懸命生きているという状況で、分科会の場を、さまざまな立場で子どもと接している人々の出会いの場、交流の場とし、そして、「集団で育つことの意味」を考える場とした。

 子どもたちを一人一人を見ていくことと、集団をどう育てていくこととの両方をよく見ていくことが大切であること、親にも集団の大切さを訴えていくことが必要であることなどを確認しながら、成長がクローズアップできて、成長が認めあえるような集団が必要であることなど共有した。「人と人をつなぐこと、子どもにたくさんの人や物や学問・文化を出会わせることが大事」という感想も頂いている。マンネリ化に陥らず、「出会い直し」をすることが必要である。

 6月の公開研では、「人のつながりの弱さ−地域がこわれている」また、「自然の生き物と子どもとの関わり」「地域でいかに学ぶのか何が育つのか」などの検討課題の提起も踏まえながら、活動や参加している子どもたちの様子について注目した。当日は、堀井篤さん(元立命館高校)に「奥丹での地域活動から」の報告をして頂き、続いて向陽高校の和気徹さんが、学校での子どもたちの自然観察活動について報告、地域研の棚橋啓一さんが、子どもの発達と地域の果たす今日的役割について、自分が関わった子どもプール開設経験も含めて報告、子どもの発達には、子どもの発達課題に則した活動を、その能力をすでに獲得している大人や指導員と共に、自主的活動として展開させる必要があると話した。

 討論では、地域が果たせうる可能性や、課題などについても交流された。そして、認識の発達も含めての、「人間と自然との相互性」に関する継続的な研究・討議の必要性などから、「子どもの発達と自然との関わり」についての議論が継続された。

 12月のセンター研分科会では、「子どもの発達と自然との関わり」をテーマに設定し、関谷健さんが、これまでの議論や「自然や生き物と子どもとの関わり」「地域でいかに学ぶのか何が育つのか」などの検討課題も含めて、「人間と自然との相互性」と題して研究会事務局として基調提案を行い、続いて、3つの報告をして頂いた。

 @「子どもとモノとの関係」(中村雅利さん:嵐山小)、
 A「子どもたちが見つめる目」(和田昌美さん:嵐山東小)、
  B「地域は子どもに何ができるか」(堀井篤さん:元立命館高校)

 今後も継続して、「子どもの発達と自然との関わり」について研究協議していく予定となっている。

 また、2005年度より取り組んできた「北欧の教育」のシリーズについては、継続的な研究を確認しつつ、9月のセンター主催公開研究会[講演『PISA型学力』を検証する:「リテラシーと学力」松下佳代(京都大学)さん]に合流した。こういった「教育制度」や「環境」としての学校や社会環境の影響の重要な意味も含めて、今後も認識・発達についての研究を発展させて、その課題を明らかにしていくことになっている。


3. 研究に関して

   研究を進めていく上で、以下の視点を確認してきた。

1 発達理論に基づいているか

2 社会的教育的な情勢・状況を把握しているか

3 子どもたちの実態に基づいているか

4 教育現場が求めているものになっているか

5 研究成果の活用の展望

  そして、研究活動を今後どのように社会や教育現場に還元していくのか検討し、研究内容の記録・得られた研究成果を冊子か本にまとめて、組織的な研究を継続していくことになっている。


4. 2008年度の活動方針

 2008年度も「思春期の子ども」研究を継続させていくことを確認している。当面「発達の現代的課題」、「人間発達の土壌としての学校・地域」「地域は子どもに何ができるか」について、定例の研究例会を学習の場として活用、すでに設定している。この間、この研究会のあり方を捉え直して発展させようと議論もあり、実務作業のための運営委員会についても、学習討議の場としての研究例会についても、「発達保障」の観点からの学習も含めて議論を繰り返してきている。また、前年までの「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」「ケータイ文化と子どもたち」「子どもたちの発達課題と地域環境」「北欧の教育」に関する研究の継続も求められている。

 今後も、「現代の子どものコミュニケーション」「自主活動と社会的発達」「子どもの発達と自然との関わり」など、これまでの報告や研究を踏まえ、また会員の意見を広く取り入れながら、学校教育や社会環境など発達をめぐる問題を精力的に検討していきたい。

 加えて、多忙化の中で月例開催を継続していくのかといった研究会運営や会員組織に関すること、あるいは研究会活動と教育センターとの連携など、改善・整理していく課題についても、活動の中から議論を深めていくこととなろう。


5. 研究会組織体制と構成員

・代表者  宮嶋邦明(京都府立大)、築山崇(京都府立大)

・事務局  関谷健(元田辺高校)、西浦秀通(日吉ヶ丘高)

・運営委員 浅井定雄(教育センター)、伊藤晴美(嘉楽中)、北村彰(東宇治中)、久保田あや子(音羽中)、中山善行(学童保育連協)、和気徹(向陽高)

・会員   (略)


 長年に渡って、事務局員・運営委員として、本研究会の研究と活動を支えてくださっていた小倉昭平(元同志社高校)さんが、2007年6月に逝去されました。慎んでご冥福をお祈りします。

 
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