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発達問題研究会 2005年度報告と2006年度方針
 
西浦 秀通(発達問題研究会)
 


1. 2005年の活動経過

 2003年には、インターネットや情報機器・道具の普及などと併せて「コンピュータ社会に生きる子どもたちを取り巻く環境」について検討、2004年は「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」に関して、子どもたちの文化という視点から学習と議論を重ねてきた。

 2005年も、引き続き「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」に関して、研究と議論を継続した。

  具体的には、月例の研究例会でのテキストを用いた学習や報告者を招いての発達理論・発達を取り巻く環境の研究を背景に、また、運営委員会での議論と問題提起を踏まえ、7月2日(土)に公開研究会「つながることの困難と発達の現代的課題 −変わりつつある学校とその背景− 」を開催、京都府下から小中学校や高校現場の児童生徒たちの様子について、授業や学級の具体的な活動・報告にもとづいた現状理解の討議を、夏季研プレ企画として行なった。

  夏季研当日は、「人間発達の源泉としての学校と社会の現代を問う ―思春期の発達課題と環境の視点から―」を分科会テーマとして、<基調報告 西浦秀通(研究会事務局)>と<講座「子どもの歯車と合う教科教育への改革 −生態的概念を組替える中での自己評価(メタ認知)を基礎に−」 関谷健さん(元田辺高校)>、および<報告1 成り立つことが困難な授業と学級のはじまりを体験して 本庄豊さん(中学校)><報告2 思春期のこどもを取り巻く状況と発達課題−最近の高校生の学校生活− 渡辺一弘さん(高校)><報告3 思春期の入り口に立つ子どもたちと「何を学び合い」「どうわかりあう」か… 葉狩宅也さん(小学校)>の3本のレポートを議論の中心に据え、子どもたちがおかれている学校・地域社会という「環境」の視点から、実践・実態報告にもとづいて議論を深めた。

  また、「発達の現代的課題」をより広い視点から俯瞰することを目的として、秋からは「北欧の教育」を連続的に議論し、11月には他の団体との共催で横山悦生さんを講師に「北欧における教育の現状から −技術教育の現場を通じて−」をテーマとした教育研究会(第8回公開研究会)を開催した。組織力といった側面からの検討も求められるが、内容的には充実した研究討議を行なうことができ、今後の研究活動の展望を開いた。

  昨年度の活動の記録は、以下の通り。

1月22日(土) 研究例会(テキスト:正高信男著『人間性の進化史』、前年度活動総括、研究の方向性)
3月12日(土) 研究例会(小倉昭平氏「子どもの発達と発達保障」、夏季研に向けて)
4月16日(土) 研究例会(黒田学氏「発達保障論の基礎」、夏季研分科会設定・公開研究会に関して、「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」の議論)
5月7日(土) 運営委員会(研究紀要発刊の方向について、思春期の子どもを取り巻く発達上の現代的困難や可能性について議論、公開研究会に関して)
6月11日(土) 研究例会(人見江利子氏「スクール・ソーシャルワークについて」、夏季研分科会設定・公開研究会に関して、「発達の現代的課題」の議論)
7月2日(土)午後 第7回公開研究会 7月16日(土):運営委員会(公開研究会・夏季研について)
8月27日(土)〜28日(日) センター夏季研(第1分科会担当)
10月1日(土) 運営委員会(夏季研総括、公開研究会に関して)
10月15日(土) 運営委員会(夏季研総括、公開研究会に関して)
10月15日(土) 公開研究会開催準備会(共催団体4者)
10月 各支部教育研究集会参加
11月5日(土)〜6日(日) 京都教育研究集会
11月12日(土) 研究例会(公開研プレ学習会=本庄孝夫氏「フィンランドとデンマークの教育視察から」、公開研究会に関して、「北欧の教育」の議論)
11月26日(土)午後 第8回公開研究会


2. 2005年のまとめ

 2005年度も前年度に引き続き、研究の焦点を「思春期の子ども」に合わせ、さらに (1) 認知的能力 (2) 身体的・運動的能力 (3) 現代社会の中の思春期 という3つのテーマに沿って研究活動を進めることを追求した。

 また、情報化社会における「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」という前年に引き続いた研究から、小・中・高等学校それぞれの学習や自主活動を、子ども達と今日の学校・社会環境の間に介在する困難と可能性という視点からとらえなおす議論を試みてきた。

  そして、正高信男著『人間性の進化史』をテキストに用いたり、小倉昭平さん(元同志社高校)に「子どもの発達と発達保障 −子どもたちの発達の道を開き、人間性豊かな未来を確立していくために」を、黒田学さん(滋賀大学)に「発達保障論の基礎」を報告して頂いたりと、月例の研究例会を地道に開催してきた。例会では、引き続き、人見江利子さん(京都府立大院)から「スクール・ソーシャルワークについて」と題して、子どもたちを取り巻く人々や環境に働きかけてサポートするためのネットワークを築く具体的方法としてのスクール・ソーシャルワークについて報告して頂くなど、テーマを絞り、あるいは研究テーマそのものを発展させる側面からも、定例の活動(研究例会+運営委員会、公開研、夏季研)を軸に多彩な内容で原則的な研究を継続してきた。

  その議論の中で、夏季研分科会設定については、「思春期の子どもを取り巻く発達上の現代的困難や可能性について、子どもたちがおかれている学校・地域社会という”環境”の視点から、実践・実態報告にもとづいた研究討議を行う。」というねらいを定めた。

 準備段階での学習活動の中で、中高生の発達阻害をどう捉えるのか、あるいは、「変化(成長・発達)の時期を固定的に考えるべきではないが、何でも知りたい見たいという興味・関心(子どもの輝く力)を削いでしまっている現実」に関して、また、子どもをめぐる「環境」について、たとえば「少年事件」「小学校のセキュリティ」などについても議論をしてきた。

 このような研究経過や情勢及び運営委員会の問題意識などについて、夏季研当日には分科会冒頭で研究会事務局として基調報告を行い、参加者に分科会設定の経過を説明して、背景としての「モラトリアム心理の変化」や「無職者比率の増大」、また、傷つける・傷つけられるという関係の中で子どもたちが過ごしている状況があること、現状対策としての「学校のセキュリティの強化」「登下校時の監視」など、あるいは、「子どもの安全」というときの加害者である「大人」がどのような筋道を通って成長してきたのか、という検討課題も提起した。

 また、分科会には「講座」を開設して「学習の中での子ども自身の組み替えを通して科学概念を形成し、自己認知(メタ認知)を発達させる必要がある」という視点から、教科学習・教科教育の捉えなおしなどと絡めて討議し、その後もコミュニケーション能力と認知発達・人格形成などについて多岐にわたる議論を継続している。

  夏季研当日の議論では、報告者や参加者から「教育改革」の渦の中にある学校現場の様子や、子どもたちの発達上の「ゆがみ」などが具体的に出された。学力をはじめとして多くの課題を持った子どもたちの様子などが報告されたが、それと共にそれを克服するための豊かな実践の報告がされたのも特徴であった。

  夏季研の取り組みと並行して準備を進めてきた「北欧の教育」のシリーズでは、公開研共催を軸に、プレ学習会を研究例会として設定、本庄孝夫さん(京都府議会議員・元中学校教諭)に「フィンランドとデンマークの教育視察から」をテーマとして報告して頂き、 北欧の制度などを検討しながら、子どもたちの発達と教育環境についての議論を深めた。

 こういった「教育制度」や「環境」としての学校や社会環境の影響の重要な意味も含めて、 認識・発達についての研究を発展させて、その課題を明らかにしていくことになっている。

 今後共、思春期以降を見据えてこれからの研究内容・テーマについても継続して模索し、「思春期の発達問題」やその課題を明らかにしていくこととなる。


3. 研究に関して

  研究を進めていく上で、以下の視点を確認してきた。

@ 発達理論に基づいているか
A 社会的教育的な情勢・状況を把握しているか
B 子どもたちの実態に基づいているか
C 教育現場が求めているものになっているか
D 研究成果の活用の展望

 そして、研究活動を今後どのように社会や教育現場に還元していくのか検討し、研究内容の記録・得られた研究成果を冊子か本にまとめて、組織的な研究を継続していくことになっており、現在、研究紀要を編集中である。


4. 2006年の活動方針

 2006年度も「思春期の子ども」研究を継続させていくことを確認している。

 当面、「北欧の教育」「発達の現代的課題」について、定例の研究例会を学習の場として活用、すでに設定している。

 この間、この研究会のあり方を捉え直して発展させようと議論もあり、実務作業のための運営委員会についても、学習討議の場としての研究例会についても、「発達保障」の観点からの理論的な学習も含めて議論を繰り返してきている。

 また、前年までの「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」に関する研究の継続も求められている。

 今後も、「現代の子どものコミュニケーション」「自主活動と社会的発達」など、これまでの報告や研究を踏まえ、また会員の意見を広く取り入れながら、学校教育や社会環境など発達をめぐる問題を精力的に検討していきたい。

  多忙化の中で月例開催を継続していくのかといった研究会運営や会員組織に関すること、あるいは研究会活動と教育センターとの連携など、改善・整理していく課題についても、活動の中から議論を深めていくこととなろう。


5. 研究会組織体制と構成員

・代表者   宮嶋邦明(京都府立大)、築山崇(京都府立大)
・事務局   関谷健(元田辺高校)、西浦秀通(伏見工高)
・運営委員 (略)
・会員    (略)

( 長年に渡って、会員として、また、精神的支柱として、本研究会の研究と活動を支えてくださっていた田中昌人(京大名誉教授)さんが、2005年11月に逝去されました。慎んでご冥福をお祈りします。)

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