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季刊「ひろば・京都の教育」第124号(2000年11月)

30人学級の実現こそみんなの願い
教育基本法改悪をねらう政府文部省
                 京都ネットワーク ◆ 寺内 寿


 文部省は8月31日、2001年度から始まる新しい教職員定数改善計画を作成し、それにもとづく来年度文部省概算要求を提出しました。いま、30人学級(少人数学級)を求める自治体意見書採択は1550自治体にものぼるなど世論は大きくひろがっています。京都でも、今年なって加悦町で意見書が採択され、舞鶴市議会の文教常任委員会で「30人学級を求める請願」が採択、丹後町で趣旨採択されるなど、10の自治体にひろがっています。

 しかし、文部省の概算要求は、「30人学級見送り」など、このような子どもと教育をめぐる深刻な事態の解決を求める国民の声に背を向けたものとなっています。

◇教育条件にかかわる特徴

 1 新しい教職員定数改善計画では、文部省「教職員配置の在り方等に関する調査協力者会議」報告(5月19日)のとおり、30人学級の見送り、現在の40人学級を維持したまま、「基本3教科(小学校は国語・算数・理科、中学校は英語・数学・理科)で少人数授業を行う」ために、2万2500名(5年間分、初年度は4500名)配置するとしています。30人学級実現を求める世論が多数となり、子どもが減少するなかで、教育条件改善の絶好の機会であるにもかかわらず、この世論を無視するやり方は、公教育に対する教育行政の責任の基本が問われる問題です。

 また、養護教諭・学校栄養職員・事務職員数がわずかながら改善されますが、単純に学校規模による増員ではなく、「心身の健康への適切な対応を行う学校」「食の指導への対応を行う学校」「きめ細かな学習指導や教育の情報化の支援等のための事務部門の強化を行う学校」など、文部省のすすめる特色ある学校づくりをすすめる学校に増員するものとなっています。

 2 私学助成(経常費)は、今年度わずかながら76億円の増額となっています。

 3 公立学校施設整備費は、危険老朽校舎の解決が大きな問題となっているもとで、今年度とほぼ同額にとどまっています。

 4 長期不況のもとでの就学保障が切実になっているにもかかわらず、子どもの人数減を理由に、要保護、準要保護援助費を減額、僻地教育振興費も減額しています。

 5 一方、「新しい教員人事管理の在り方に関する調査研究」(予算2倍化)、「管理職手当の増額」「教頭複数化の促進」など教職員の管理強化をはかる事業が推進されようとしています。

◇私たちの運動の反映も

 こうした概算要求のなかにあっても、30人学級はじめ教育条件の改善を求める運動や概算要求期に向けた取り組みなどを反映した貴重な成果もいくつかあります。  第一は、今後5年間に子どもの減少による教職員の減少分を減らさず維持させたこと、第二は、事務・栄養職員の人件費の国庫負担を堅持させたこと、第三は、小中学校の教科書無償化を継続させたこと、第四に、高校など私学への助成を増額させ、授業料減免事業臨時特別経費も継続させたことなどがあげられます。

◇いま、正念場!「30人学級」を2001年度から

こうすればできる、30人学級

 文部省は小中学校を30人学級にするには12万人の教員増、約1兆円が必要で、財源的に困難だとしています。

 しかし、私たちの試算では、いままでにティームティーチングなどで改善してきた1万6000人と今後5年間の子どもの減にともなう教員減少分2万6900人を減らさずそのまま確保すれば、残り7万7100人を六年計画で毎年1万2850人ずつ増やしていけばよいのです。そのための財源は、単年度1120億円(国庫負担は半分の560億円)を増額していけば30人学級は実現できます。

国会議員に働きかけ、全会派共同の議員立法で30人学級を

 3000万署名の高まりで法律を改正させ、30人学級実現の展望を切り開くことです。それは1980年度から実施された45人学級から40人学級への改善(「標準法」の改正)が国民世論の高まりを背景にして、共産党・社会党・公明党・民主党・新自由クラブが、「定数法抜本改正法案」を議員立法で提出し、40人学級に反対していた政府・文部省を追い詰め、定数小委員会を設置、新定数法成立へと道を開いた経験をいかすことが必要です。

 現在、参議院では先の参議院選挙で30人学級はじめ少人数学級を公約した議員が過半数を占めています。また衆議院は先の総選挙で、自民党以外の政党は30人学級はじめ少人数学級を公約に掲げました。それだけに、3000万署名で国会を大きく包囲するならば、40人学級を実現したときのように、議員立法で「30人学級」の実現展望を開くことができます。

 あわせて、30人学級の実現に向けたPTAや地域の団体からの「団体署名」を文部省に集中する取り組み、さらに引き続き市町村議会「国の責任で30人学級実現を」の自治体決議を追求し、文部省に決断を迫ることが大切です。

 そして、国待ちにならず、京都府はじめ市町村が独自に30人学級など少人数学級をすすめるよう働きかけていくことも、いま重要となっています。

◇「教育改革国民会議」に対する見解

 9月22日、森首相の私的諮問機関である「教育改革国民会議」が中間報告として「教育を変える17の提案」を発表しました。教育基本法の見直しを視野に入れた国民的討議を呼びかけるなど重要な内容となっています。

 同日、京都教職員組合はそれに関する第一次的見解を表明しました。

 

(資 料)
「教育改革国民会議」[中間報告]に対する私たちの見解
                                   2000年9月22日 京都教職員組合


 本日「教育改革国民会議:以下「国民会議」と略」(森首相の私的諮問機関)は[中間報告:以下「報告」と略]をまとめ、「教育を変える17の提案」を発表した。年内にも[最終報告]のまとめを行い、答申する模様である。

 私たちは、子どもたちの現状や学校教育のありかたについて国民的関心が高まる今、「国民会議」の提言が今後の我が国の文教政策の動向に多大な関与があるとの見地から関心をもち、ここに批判的立場を明らかにし第一次的な見解を表明するものである。

 1 今日の子どもたちや学校教育の現状を顧みて、今の教育の有り様に対する危惧の思いは多くの教育関係者のみならず国民各層に広がっており、併せて何らかの「改革」を求めることは必然であり、私たちもその場に立つものである。

 しかし、「報告」にみる改革構想は何かを変えねばと思う余りのショック療法的なもので、父母・教職員をはじめとした多くの国民の願う方向とは裏腹なものとなり、「直面する課題解決を遠のかせ、かえって教育を混乱させる心配がある(7月28日付『朝日新聞』社説)」内容になっている。今の流れに“逆行”する時代錯誤的で荒唐無稽な改革プランとしか言いようがないものである。

 2 「報告」にみる「改革」提言は、少年犯罪や登校拒否、学力低下問題などの切実な問題の原因を見極める検証を経て現実的に解決していく方向を何ら打ち出すことなく、むしろそのことを“逆手”にとって政治的イデオロギーを優先した印象論を放言したもので、切実な自体に直面し苦悩する子どもや父母、教育関係者たちを愚弄するがごときスタンスから打ち出したものである。しかも80年代半ばに3年の歳月をかけた同じく首相の諮問機関でもある「臨時教育審議会」や文部省の「中央教育審議会」などの審議経過に比べても、諮問を受けてからわずか9か月程でまとめるという手法はあまりにも拙速であり、教育的見地での議論をほとんどやっていないことを裏付けるものである。

 3 このような動きの背景には財界の意向を丸呑みした次のような政府・自民党などの政治的思惑が、当初に狙いより若干トーンダウンしたとはいえ、露骨に反映されたものと考えられる。

(1) 教育基本法の改悪を憲法改悪への大きなステップにしようとしている。
(2) 国家主義と能力主義の教育を更に進めることに加えて、新自由主義的教育観を導入するには、教育基本法が大きな障害になること。
(3) ゆきづまった森政権が参議院選を控えて、「教育改革」を政権立て直しの柱にしようとしている。

 4 教育の主対象となる子どもの現状を「ダメな子」と規定し、戦前の「教育勅語」に基づく教育観を思わせるような、家庭での「しつけ」や学校での「道徳」「人間科」「人生科」の強化、奉仕活動の強要など一方的な“鍛練”により、課題を持つ子どもを排除し切り捨てて、子どもたちを鍛え直そうとする視点を貫いている。このような子ども観・教育観は、今日の子どもたちの発信する苦悩に満ちた実態を正面から受容し、子ども自身の言い分を聞いたうえで、父母・教職員をはじめとした人たちが共同して困難を打開し、教育行政はそのことを保障する条件整備にこそ力を入れるべきとの私たちの立場とは全く相容れないものである。

 5 教育基本法の「改正」を目途とした国民的論議の呼びかけは欺瞞に満ちたものである。「教育基本法」をアメリカ占領軍下で策定された“古いもの”とし、今日の社会状況に適合しないものと規定し、その「改正」を目論み、教育基本法の基本理念や精神を軽視した結果、今日の教育の混乱を招いたとの指摘には開き直って、機会均等の教育観や教育行政の条件整備責務を放棄することの本音を露にしている。戦前の「教育勅語」を全面否定した「教育基本法」こそ今日の教育課題解決の方向を指し示す指針として光り輝くものである。

 6 具体的提案内容についての特徴的な問題点

(1)「人間性豊かな日本人の育成」について  家庭での「しつけ」、学校での「道徳」重視や、古典・哲学・歴史の重視、体験学習や奉仕活動の義務化など、戦前の教育への復古を想起させるものが羅列されており、昨今文部省などが強調してきた教育の国際化、情報化の方向さえ転換させたもので、私たちの指向する「確かな学力・豊かな情操」をすべての子どもに身につけさせる方向とは無縁のものと言わざるを得ない。
(2)「一人ひとりの才能の育成」について  戦後教育の根幹をなす教育の機会均等を崩し、画一的一律主義の見直しを強調している。小学校入学年齢の弾力化、中高一貫校の推進、習熟度別学習システムの導入による学習集団と生活集団の区別、大学入試の多様化など財界の求めるエリート養成に道を開きつつも、多くの子どもには“競争の教育”にさえ門戸を閉ざす差別・選別教育の今日的再編を目論んでいる。
(3)「学校長を中心とする新しい学校づくり」について  学校長の権限を肥大化する一方で、一般教職員などは人事考課により任免され、「メリット特別手当」などの差別的賃金体制の導入を示唆し、学校評議員制度のもとに学校と教職員を監視しようとしている。そのことにより、学校長の意図する学校運営は容易になるものの学校の主体性や教職員の生命ともいうべき自主的権限が著しく疎外されることが危惧される。
 私たちは、今日の学校教育では子どもや父母の多様なニーズを受けとめ、すべての子どもの人間らしい成長を促す場所として、学校長を含めた教職員集団と父母・教育関係者が主体的にとりくむものと考える。
(4) その他、今後の議論を経て期待(懸念)されることについて
 ・有害情報から子どもたちを守ること(言論の規制を考慮しながら)
 ・学級編制の弾力化(学級編制基準の硬直なまでの堅持は容認できない)
 ・教育財政枠の拡大(何に執行されるのかが問題だが)
 ・教育休暇制度(すべての父母に保障されるのか)
 ・奨学金制度の充実(幅広く門戸を開くものか)

    (以下略)

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