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季刊「ひろば・京都の教育」第123号(2000年8月)

【特集「個食時代の子どもたち――食生活と学校給食を考える」2】

ひろば編集部発 京都の学校給食・最新事情(1)
京都市で中学校給食が始まるけれど……


一歩前進ではあるけれど

 京都市は昨年12月に公立中学校での給食実施を発表しました。

 京都市が実施を計画しているのは、従来の家からもってくる弁当か、給食か、生徒が選択できる「完全自由選択制」というものです。給食を選択した場合は、委託された外部の業者が調理した(「校外調理委託方式」)弁当が配られます。現在、市内の六中学校(衣笠、久世、勧修、四条、桂、栗陵)で試行が計画されており、11月には実施するようです。

 教育委員会は「完全自由選択制」を採用について、

(1)家庭からの弁当持参が定着しているが、持参できない生徒には栄養のバランスを配慮した食事を提供する必要がある、
(2)嗜好や食事量に個人差が大きい中学生には、小学校のような画一的な給食はふさわしくない、
(3)生徒や保護者が給食をとおしてより望ましい食習慣を身につけてほしい、のおもに3点の理由をあげています。

 こうした京都市の計画に対し、学校関係者や保護者からは「個人差を配慮するというのに、同じ内容、同じ量の弁当が届くのは矛盾を感じる」「望ましい食習慣がこのような弁当でつくとは思えない。主食、主菜、副菜、汁物といった基本の食を、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくして用意してこそつくのではないか」「安上がりに学校給食の体裁だけはととのえたいという、本音がすけてみえる」との批判の声があがっています。

中間報告からわかったこと

 ところで、京都市教育委員会は、この間給食推進員会の中間報告を3回出しています。それによると、たとえば「(希望者は)給食実施月の前月に1か月分を一括して申し込む」「1食の保護者負担は260円とする」「主食は米飯で1人100グラム、1人20グラム見当のおかわりを用意する」「副食はデザートを入れて4種類、牛乳をつける」「弁当箱はポリプロピレン製を使用する」などが報告されています。

 また、食材の安全性については「化学調味料の使用は、努めて避けるようにする」「着色料、保存料、食品添加物などが必要以上に使用された食品は努めて避けるようにする」「過度に加工されたものや有害なもの、またはその疑いのあるものは避けるよう留意する」などの指針をあげています。しかしこうした表現で、果たして食の安全が確保できるのか、不安も残ります。また安全性が確認できていない遺伝子組換食品について言及されていないのも気になるところです。

 現在この方式を採用しているのは、名古屋市や広島市などごく少数で、文部省は「推奨できる形ではない」と指摘しています。味付け、食材、容器の安全性、保護者負担の問題など、不安や問題を山積みにして出発しようとしている京都市の公立中学校の給食、「子どもたちにとってのぞましいのは何か」の視点で、しっかり見ていく必要がありそうです。


保護者、栄養職員、中学校教師の寄稿


給食について(小学生・中学生保護者)

 脱脂粉乳世代の私としては、今の小学校はずいぶん給食もおいしくなっていて、結構なことだと思う。

 今度、中学校で給食が実施されるそうだが、現役中学生をもつ親としては、もっと早く実施してほしかった! というのが本音である。今どき「弁当が親の愛」なんていう人はいないだろう。働く親のはしくれである私は、やはり弁当作りはプレッシャーでもある。自分では作らないくせに、文句ばかりを言う娘を尻目に、毎日同じようなメニューのものが詰められる。

 中学校の給食については、アレルギーの子どものことや給食室のことなど、実施にはいろいろ問題もあると思うが、私は賛成である。小学校と同じくらい食材について神経を使っていただければ、夏場のことを考えただけでも、弁当よりは給食の方がずっと衛生的だと思う。  昨年子どもの小学校の栄養士の先生にお話を聞く機会を得た。先生の話はおもしろく、私たちの知らないところでいろいろ苦労があるということを改めて知った。たとえば、月曜日の献立は煮込み物(シチュー、カレーなど)が多いが、それは休みが入るために日持ちのする食材を使っているため、ということがわかった。そんな話を聞きながら、今まで子どもが学校から持って帰る「栄養だより」をほとんどきちんと読んでいなかった私は、これからはしっかりと目を通そうと決心した。

 ところで、この栄養士の先生は、残念ながら全部の小学校に配置されているわけではないらしい。中学校の場合はどうなのだろう、センター方式で始まるのだったら栄養士の先生は配置は難しいと思うが、そんなことも給食開始にあたっては考えていきたい課題だと思う。


自校直営方式をこそ(京都市・栄養職員)

 心も身体も大きく成長をとげる中学生、「育ち盛りの子どもたちに教育の一環としての豊かな学校給食を」という父母・市民の願いがとどき、それまで「愛情弁当が京都の伝統」と否定的な考えを示していた京都市が中学校でも給食が必要との見解をもち、実施に向けての検討委員会が設置されました。

 ところが、京都市が出した方針は弁当か給食かを選択する「完全自由選択制」」、業者が学校外で作った弁当のようなものを届ける「校外調理委託方式」で、給食とは名ばかりのものでした。京都市では弁当持参が定着しており、個人差の大きい中学生に画一的な給食はそぐわないというのがその理由です。しかし保護者が希望したのは、弁当には制約が多く、温かいものや汁物が入れられないし、夏は食中毒が心配、冬は冷たく食べにくいなどの理由から、栄養のバランスのとれた温かくてバラエティに富んだ給食の実施でした。

 弁当方式の給食を実施しているところでは、食べ残しが多い、注文数を増やすために子どもの嗜好に迎合し過ぎる、食べるまでの時間が長いなどの問題がでています。

 多感な思春期、ささいなことで心のブレーキを突然失い「荒れる」「きれる」など問題行動を起こす子どもたち、また「落ち着き」や「集中力」に欠け「いじめ」などにあらわれる心のありようは、偏った食事や孤食などの食生活との関連が深いと報告されています。

 私たちが実施してほしいのは、子どもたちの健やかな発達を公的に保障し、教育の一環としてすべての子どもたちが受ける権利をもっている、自校直営方式の学校給食です。安全で温かく、手作りのおいしい食事、季節感や行事食を取り入れ、毎日の献立を教材にして健康的な食習慣を育て、日本の食文化を伝えられるような給食でありたいと思います。

 作り手の顔が見え、お昼前になるとおいしいにおいが学校に広がり、みんなで食べる給食時間は子どもたちにとっても楽しくホッとできる時間で、人間関係も豊かになっていくのではと思います。

 「中学校給食は必要」ということで一歩前進しましたが、教育とはほど遠い中味です。試行実施される6校の様子、を交流しながら、生きる力を育む、より豊かな学校給食の実現に向けて声を大きくしていきたいと思います。


中学校での学校給食、子どもが求めていること (中学校教諭)

 城陽市では中学校の学校給食が実施されています。50分授業の中で、「いただきます」が午後1時近くになってしまうこと、給食当番活動がスムーズにいくように、教師がかなり苦労していることなどもあります。しかし一番大切なことは、子どもたちが学校給食に対してどんな評価や願いをもっているかだと思うのです。

子どもの評価

 担任している3年生の学級で、簡単な調査をしてみました。給食については、「あった方がいい」(70%)「どちらでもいい」(10%)「ない方がいい」(20%)という結果が出ました。評価の理由は、「毎日違うメニューが食べられる」「栄養のバランスがとれている」「弁当はかさばるし毎日作るのは大変」「おいしい、学校に来る楽しみの一つ」「牛乳やデザートがあっていい」といった内容でした。

 給食への満足度については、「満足、まあまあ満足」が合計80%と高い数値を示しました。子どもたちの給食への期待は結構高いのです。

理想の学校給

 子どもたちに理想の学校給食について、自由に書いてもらいました。「学校で作って食べられるようにして」「食堂で友だちと食べたい」「自分でメニューを選べるように」「食器もきれいにして」「デザートやフルーツを多くして」「あったかくておいしくして」などの希望が出ました。予算が必要ですが、決して実現が不可能なことではないと思うのです。

 「個食の時代」と言われるなかで、食文化としての給食の意義は増していると思います。困難な生活を抱え、給食が貴重な栄養補給の場になっている子どももいます。友だちと一緒に楽しく食べるひとときは、貴重なリラックスタイムです。城陽市は「給食センター方式」ですが、作り手との交流の工夫などが、さらにできるといいなと考えています。


ひろば編集部発 京都の学校給食・最新事情(2)
府下ですすむ「安上がり」給食


 学校給食は、現在「行政改革」の流れのなかで全国的にセンター方式、民間委託、調理員のパート化など、合理化がおこなわれています。京都府下も例外ではなく、各地で給食センターが建設されたり、民間委託に移行したりしています。現状を追ってみました。

湯気のたたない給食

 センター方式は、1か所に集中させて何千食分を一度に調理し、各学校に配送するやり方です。この方式には、配送時間があるため、調理に時間がかけられず加工品を使うことが多くなる、温かいものを温かいうちに食べられない、衛生面・安全面に不安がある、アトピーなど子どもたちの実態に合わせられない、調理過程を子どもに見せられないなど、多くの問題点が指摘されています。

 現在、京都府内には16か所の学校給食センターがあります。なかでも昨年度より運営されている亀岡市の学校給食センターは、市内の全小学校である18校約7000食を調理する、府内最大の規模です。問題点として指摘された配送については、18校分を8台の配送車でおこない、第1便の配送出発時刻は11時10分です。各学校、給食は12時30分前後に始まりますから、給食がセンターを出て子どもたちの口に入るまで、長いところで1時間20分かかっていることになります。

 「より豊かな給食をめざす亀岡連絡会」によれば、子どもたちからは「野菜を使った給食がおいしくなくなった」「汁物のとき、クラスごとに配られる食缶によって具のかたよりがある」などの声があがっているそうです。

 ほかに、丹波町では丹波町学校給食センターが今年度4月から開設され、さらにこの丹波町のある船井郡のいくつかの町で、センター方式が検討されています。近い将来、船井郡では学校独自に調理する方法(単独調理校)の実施はわずかになるといわれています。

 またこれら16のセンターのうち4か所(福知山、亀岡、南山城、園部)が、現在民間委託で運営されていますが、そうしたなかには、ほかの宿泊施設の宿泊者用の食事と一緒に調理しているセンターもあります。1975年度よりセンター給食をおこなっている南山城村では、現在4校分約200食の給食を、南山城少年自然の家の利用者の食事と一緒に業者が調理しています。ちなみにここは、正規社員は調理師が1名のみで、週3回の嘱託栄養士が1名、臨時調理師が4名、嘱託配送運転手が1名という構成(昨年度実績)で調理、配送されています。

「面倒なことはできません」

 さらに、合理化策としてあげられているものに、自校方式による調理部分の民間委託があります。これは各学校の給食室で調理はするけれど、正規の(市町村)職員でなく業者からの派遣社員が調理するという方式です(栄養士は従来どおり学校職員)。導入を進める行政は、経費削減ができ、調理員がかわるだけで給食の質は変わらないと説明しています。しかし、すでに導入された学校現場からはさまざまな問題点が指摘されています。

 たとえば、派遣社員の入れ替わりが多いという問題です。一度に大量の調理をする大釜は、2、3年の技術では使いこなせないそうです。しかし、実際は技術の低いパート労働者が派遣されることが多いようです。

 また、派遣社員の労働強化になるような面倒なことはやりたがらないという実態も報告されています。たとえば、手づくりのカレールウのような手間のかかるメニューはしない、安全を配慮して使われてきたせっけんも「手間がかかる」「汚れが落ちない」と合成洗剤に替えたなどの例が他府県で報告されています。

 さらに、導入理由の第一である経費削減に関しては、全国調査の結果、業者への業務委託費は導入3年を過ぎるころには軒並み値上がりしており、なかには12年間で3倍にもなっている例もあります。

 さて、この自校方式民間委託は府下の各自治体で導入が検討され、実施された所もあります。長岡京市では昨年9月に1校、今年度さらに1校が民間委託となりました。ほかに大山崎町、宇治市でも今年度導入され、向日市、舞鶴市、京都市では検討されています。

民間委託がはじまった宇治市

 京都では、こうした給食調理の「合理化」に対して、拙速な合理化を見直し、安全で文化的な給食の充実を求める運動がひろがっています。

 宇治市では、昨年9月「学校給食調理方式見直し懇話会」が民間委託の答申を出したのに対し、保護者や教師、給食関係者などで「宇治の学校給食を考える会」を結成し、学習会や懇談会を開いたり署名活動をおこなってきました。とくに5月に諮問を受けた懇話会が、懇話会(全員出席は2回)5回と現場視察1回で、9月に民間委託の答申を出し、それを受けて11月に教育委員会が実施を決定した、という進め方に対して、強引に進めるのではなく、保護者や現場の教職員に十分な説明や意見聴取をおこなうよう、申し入れてきました。

 米飯だけでも30種以上というメニューの豊富さや、調理員が卵から作るプリンや化学調味料を使わないだしなど手づくり給食で評価の高かった宇治市では、市民の学校給食への関心も高く、署名も短期間で3万4000筆集まりました。実施を見直すまでには至りませんでしたが、現在「考える会」では、民間委託された2校の「監視活動」を続けながら、豊かな学校給食を求め、市民的論議を重ねるなど活動に取り組んでいます。

安全で豊かな学校給食を市民の声で

 一方、民間委託導入を検討中の自治体でも、給食問題に関する十分な論議と情報公開を求める市民の声が強くなっています。

 舞鶴市では昨年11月の諮問を受けて、3月に民間委託の答申が出されました。これに対し、「より豊かな学校給食をつくる舞鶴の会」が舞鶴市職員組合と舞鶴市教職員組合を中心に結成され、学校給食アンケートの実施と、「舞鶴市の学校給食の充実を願う」請願署名をおこないました。

 「舞鶴の会」によれば、1月から3月までで集まった署名は20292筆、過去の請願署名と比べて倍近くあり、市民の給食への関心の高さは予想以上だったそうです。また、「親の会」もつくられ、独自に学習会などを開いてます。そうした市民の声に押されて、現在でも、民間委託の決定には至っておらず、今年9月の定例市議会での動きが注目されています。

 このほか、向日市では「向日市の給食を良くする会」が結成され、学習会を開くなど、学校給食について論議が重ねられています。また、先にあげた亀岡市では「亀岡連絡会」が給食センターの栄養士や調理師と保護者、教師との交流会を呼びかけるなど、センター給食実施以後も、豊かな学校給食への努力が進められています。

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