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生活指導研究会
2003年度研究会活動の経過と概要
 
 昨年度に引き続き、小・中・高それぞれにおける生徒の実態の分析と生活指導実践の焦点について会員の報告にもとづき議論を重ねた。夏季研では、「生活指導における自己と他者の問題」をテーマに議論した。また、研究誌出版を見通して、教育改革をめぐる情勢の分析も含めて編集について検討した。
 
1.研究例会
 
 2002年度
F2/21:総論検討(2)/「今日の教育課題にどう立ち向かうのか−修学院第二小学校での実践から」(浅井:小学校高学年の子どもたちの新しい様相/学校は子どもたちの発達を保障しているか/平和学習のとりくみ/学級づくりの取り組み計画と報告/児童生徒の生活実態から見えるもの)
G3/28:中学校の現状と生活指導実践(北村:表現する子どもの発見−指導の対象から表現の主体へ視点の転換/個性化する家族と表現する子ども/よい子の中の闇/これからの対応) 
 
 2003年度
 
 5月10日 第1回例会
 (1)研究討議
  テーマ:高校生の生活(学習)実態と生活指導の課題
  報告・問題提起:城南高校 川口先生(調査資料等をもとに)
主な話題:「理科嫌い」/学習への意味づけ・・・「学校の勉強は役に立たない」が「教養は必要」/「やや困難な授業」/睡眠障害が疑われる生徒も/4人に一人が一人で夕食/「朝の読書」・・・本を読むこと自体より、生徒とのコミュニケーションに機会に
討論から
・ことばによるコミュニケーションがとりにくい。「来るな」「出ていけ」「じゃまだ」など、他者を排除するニュアンスのことばが気になる。
・あるアンケートに「10年後の自分」を問う設問があったが、今の社会状況で、高校生が「10年後の自分」イメージするのは、容易ではない。
・生徒の変化に対応できない学校体制。
・頭髪指導(染髪)をめぐって・・・「帰宅指導」や強制的な染め直といった機械的指導が適切でないとしても、「指導の枠組み」をどう考えるは、教員間の合意づくりもふくめてかなり難しい。
・教師の眼前で、子どもを殴る親など、対応に苦慮する場面に直面することがある。
・子ども全体の質的変化が様々に見られる。(意欲を失い、「投げてしまっている」生徒たち/行事など、やりたいことができる場が奪われて・・・/生活の中から、夢や希望をはぐくめない状態など)
 (2)夏季研分科会の企画について
 
 6月7日 第2回例会  
 (1)研究討議 
  報告・提案 玉井先生(福天)
   高学年を2年間担任した子どもたちとの実践を、昨年度京都教研のレポートをベースに。
 
 【ことばの力の未発達と、周囲の否定的まなざしがつくる、否定的自己像】
 対人関係の希薄化や歪みからくる、言葉の力(共感性、想像力、表現力など)の未熟さが見られる。親子関係においても、人間として正面から対峙されていないのではないか、低学年時に、同級生など「仲間の良さ」を実感する経験が乏しいのではないかといったことが考えられる。
 −レポートの見出しから、実践評価の視点をあげると・・・・・・
・限りない幼さ/自分への早すぎる見限り/他者への信頼感の未発達/言葉の世界の未発達/学校の裏街道を歩いてきた子どもたち/先生からも、友だちからも、勉強からも切り捨てられた子どもたち
 
レポートから抜粋
 忘れ物、いたずら、注意されても謝れない・開き直る、ものを壊す、意欲のなさなど数々の問題行動は、"生徒指導上の課題"ではなく、"発達の課題"として受けとめることが大事だと考えられる。・・・・・「叱るだけでなく、心配してくれている」という実感を子どもたちが感じられるような、関係づくりを大事に取り組んだ。
 このほか、取り組みの要点を、レポートから拾うと・・・
 ・楽しい教室をつくること、楽しい学校をつくること/ともかく自信を持たせること、ともかく誉めること/楽しい授業 わかる授業/子どもと子どもを結び  つけること/保護者と保護者を結びつけること
 報告では、高学年での取り組みと併せて、低学年の実践も紹介された。
 【子どもたちの変化をつくり出した働きかけ】
 「崩壊」を思わせるような、困難な状況から、「叱られることに腹をたててさらに(叱られる)種をまき散らすようなことがなくなり、笑顔で過ごす時間の方が多くなった」というような、子どもたちの変化を生み出した実践には、このような視点・具体的な働きかけがあったと同時に、土曜の午後の「生徒指導連絡会」という学年を越えた交流の場、管理職も含め、学校全体で課題の多い学年の対応にあたった(担任の実践を認め、励ました)体制・雰囲気があったことが注目されます。
 子どもたちの変化の転換点・きっかけになったのは、いつ頃・どのような働きかけか?という問題提起が討議の中でありました。そういう意味での転機は、次のようなかたちで見ることができます。
 叱ることより、誉めることに心を砕き、「大目に見てやって下さい」「片目をつぶってやって下さい。時には両目も・・・」というかかわり方が、「だらしなくてけじめのつかないクラスになりました。けれど、何となく元気でにぎやかな楽しいクラスになっていきました」・・・「おれらあも、大丈夫なんや」「何とかなるんちゃうか」と思いこみはじめたころから、学級の雰囲気も確実に変わっていった・・・という、玉井氏の分析(評価)。
【物語(神話)が必要】
  低学年での実践では、「物語(神話)」(聞く・話すこと)の重要性について、ユニー クな提起がなされており、討議の大きなテーマにもなりました。この点については、高 学年中心の今回のレポートの中で、付加的に紹介されたため、あらためて議論する必要 があると思われます。
 以上のように、玉井報告は、今日の子どもが見せる特徴的な姿を発達過程に目を向けてとらえ、そこに実践上の手がかりを見いだし、子どもたちが変化するきっかけをつくりだしていっていると思われます。
(2)その他(夏季研企画・当面の活動計画など)
 
7月22日 第3回例会 
 夏季研に向けて、加藤先生報告(「戸惑い」「ためらい」「沈黙」「悲しみ」「死」などが生活指導実践においてもつ意味について−子どもの自己認識と他者認識の問題を考える−)を受けて討議。
 
第34回京都教育センター夏季研究集会(8月31日) 第2分科会企画
T 学習・討論:自己認識・他者認識の問題を考える
―「沈黙」「ためらい」「悲しみ」「死」などが、生活指導においてもつ意味について―
U ミニシンポジウム 子どもたちのいま・明日をつくる生活指導実践
 1.子どもの生活実態に見る今日的特徴
 2.子どもの家庭状況における今日的問題(経済・家族関係)
 子どもたちの明日をつくる/「個性化する家族と表現する子ども」/「否定的自己像を形成しがちな子どもたちの変化をつくり出す働きかけ」
 なお、夏季研分科会に向けて、以下のような呼びかけを作り、昨年度参加者、京都教研生活指導分科会参加者に案内した。
 
 10月11日 第4回例会 
  夏季研分科会のまとめ他(まとめの内容は、夏季研分科会報告参照)
 
 11月29日 第5回例会 
 
 (1)第53次京都教研生活指導分科会の概要
 @レポート・・・別紙一覧参照
 A各地の状況など
□親世代の特徴・・・・中学時代に「荒れ」を経験した世代
 ・何でも学校だのみ・攻撃的
 ・厳しい社会状況の中で、一生懸命育てているが、「わけがわからなく」なっている。
 ・良心的な層にも、学校・教師のリアルな実態が伝わっていない。
□子どもと学校・教師の関係
 ・「学ぶ」ことについての意欲の低下・学校への期待の希薄化
 ・学校へ来るのは、友人がいるから、静かな授業は「楽しくない」
 ・学校へ来ていても、精神的な不登校(生活感がにじみ出にくい学校)
 ・高校では、不登校経験者が増加(「きつい子が少ない」から進学クラスに)
   ・リストカット常習者・「いっしょに生きてくれる人より、いっしょに死んでくれる人が欲しい」という声・インターネットを介したつながり
□子どもの内面など
 ・「ひとりでいること」に耐えられない・不満がいっぱい(女子)
 ・生きる元気がない(クラブの過熱・塾・校外のスポーツクラブなどでの"疲れ")
 ・低学年から自信のない子ども
 ・学習・スポーツいずれでも「二極化」が進んでいる。
□社会・養育環境
 ・虐待、薬物依存、精神疾患・・・背景に離婚など
 ・「人間を大事にしない社会」のなかで
□学校・教師
 ・管理で学校をつくっていこうとする行政・生徒への「力による指導」
 ・夜9時過ぎても3分の一が残っている職場・休日はクラブ指導
 
 B子ども/学校・教師/家庭・・・全体から見えてくる社会構造・問題の焦点
 ・一言でいえば、「疎外」
・モノからの疎外・・・商品化された生活による価値観の歪み・未形成
・人からの疎外・・・ 安心感、信頼感を育てる関係を奪われている
         「ひとりでいること」への不安、自信のなさ
         「自己肯定感」を持つことへの困難
 ・競争的環境の中で、「目標管理」の手法を徹底させることで、「質の向上」を図ろうとする教育行政の「学校づくり」
 ・父母(市民)に広がる「消費者」意識・・・教育に限らず公共部門の「民営化」がもたらす意識状況
 ・一部企業の高収益と高失業率(人員削減・経営の効率化・労働密度の強化・分野による差異)が併存する経済構造のもとで、低収入・不安定就労による生活困難な階層の  持続的形成。そのような生活困難を背景とした、家庭崩壊
 ・少人数学習、2学期制など、矛盾を含んだ「改革施策」によってうみだされる実践上の新たな困難(スクールカウンセラー、非常勤「専科」教員なども)
 
 Cこのような状況・認識から考えられる実践の方向性
□地域における教師・父母・住民が協同した教育・子育ての取り組みの展開。
  今日の社会状況、生活問題を対象化して学び、課題解決に向けた力量を形成 していく見通しのもとで。
□困難をかかえた親・家庭への支援のためのネットワークづくりを。
 (2)レポートの特徴など(略)
 
2.生指研出版企画について
 (1)趣旨
 ・「生活指導実践の探求 京都からの報告」?、「思春期と道徳教育」、「子どもの権利と学校・地域づくり」に続く、京都から全国へ生活指導実践の新たな展開を発信する。
 ・今日的状況に切り込む問題意識を鮮明に。
 ・京都の生活指導実践の蓄積を反映させたものに(教研生指分科会のレビュー)。
 *京生研等民間研の活動・提起も盛り込んで。
 (2)構成(計 400枚 200ページ前後)
  総論(30)
  ・今日の日本社会において、規制緩和と競争原理の徹底、民営化の促進などによってもたらされている公共性の変容と、教育におけるそのあらわれ・問題状況
・子ども・青年の具体キナ生活・学習状況における問題実態、その特徴
・国が進める「教育改革」の現状と問題点(地方教育行政の特徴・学校政策など)
・民主的学校づくりと生活指導実践の課題
 各論
  1.京都の教育実践の蓄積に見る民主的生活指導実践の可能性(30)
  2.今日的状況を切り開く生活指導実践の挑戦(各30)
    (1)小学校
      ・子どもたちの『生きていく力』としての物語を紡いできた(玉井)
      ・「少人数学習」「特別なニーズをもつ子どもへの対応」をめぐって(浅井)
2003/2/21報告をもとに
    (2)中学校
      ・表現する子どもの発見/個性化する家族と表現する子ども/よい子の中の闇(北村)2003/3/28 レポートをもとに
・(できれば「京生研」の実践の提起を加える)
(3)高校
・8年ぶりの学級担任が見た子どもたちの実像(山口)
・今日の高校生の生活実態から見た指導課題(川口)
・高校生に学びを取り戻す(原田)
(4)特論
・子どもたちの実像に迫る教師・学校−教職員研修の試み−(横内)
・今日の子ども・青年と心の問題(加藤)
・教育相談から見た今日の子どもの内面の危機(倉本)
    (5)小・中・高の各実践へのコメント、コラム(子どもの権利/図書館/養護)など(小倉・西浦・春日井など)
(6)資料
  京都教研生活指導分科会レポートなど
(3)今後の作業テンポ(略:2004年夏〜秋の出版を目指す)
 
3.今後の研究会の予定
 
 1月30日(第6回)  第一次原稿の検討(1)    総論・小学校
 2月27日(第7回)    同    (2)    中学・高校
 3月26日(第8回)    同    (3)    コメント・特論・資料
 
2004年度の活動
 
1.出版計画の具体化(夏〜秋の刊行を目指す)
2.今日の社会・経済状況が生み出す、子ども・青年をめぐる問題状況の分析と、指導方法・内容の研究を進める。
3.文部科学省や地方教育委員会等が進める「教育改革」の動向を分析しながら、学校における生活指導(生徒指導・進路指導)課題を明らかにしていく。
4.教研集会・教育センター夏季研など各種研究集会等の企画・運営に積極的に参加すると同時に、内容の分析・評価に努める。またそれらへの参加者などを対象に生活指導研究会の会員  の組織拡大を図り、会の組織強化に努める。
 
研究組織・メンバー
 
○代表 加藤西郷(大学)
○事務局
築山崇(大学)、斉田直美(高校・塾)
*本研究会に関するお問い合わせや入会のご希望の方は、京都教育センターへ電話(075-752-1081)またはファックスでご連絡ください。
 
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