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第3分散会
今日の教育行政と教職員評価や学校選択など、教職員・父母それぞれの目から見た現状の問題・議題について議論する場にしていこう。
 
我妻秀範(京都教育センター地教行研、府高須知高校分会)
 
1 はじめに
 
 現在、全国で学校評価、教員評価が問題になっている。
 すでに東京都が2000年4月から「人事考課制度」を導入したのに続いて、香川県、大阪府、埼玉県、神奈川県、広島県が教員評価制度を導入(大阪府は試行実施)した。今年4月からは文部科学省の委嘱をうけて全国の教育委員会が教員評価に関する研究会を設置した。京都府でも6月に同研究会を設置し、年度内に答申を出し、来年度34校で試行実施、2005年度全校で試行実施、2006年度から本格実施するという。
 また、各県では優秀教員に対する表彰制度、指導力不足教員に対する研修や転職制度なども具体化されている。
 本分散会では、こうした動きをふまえ、教員評価制度の背景とねらい、問題点等を明らかにすることを目標に報告・討論を行った。報告者は我妻秀範(センター地教行研、須知高校)、深澤司(綴喜教組田辺東小分会)の2名であった。以下はその概要である。
 
2「新しい教員評価」をどう考えるか /我妻秀範
 
○現在の教員評価制度の背景に、国における公務員制度改革の動きがあることを見落と してはならない。2000年に政府は能力主義と業績主義を基調とする「行政改革大綱」 閣議決定し、2002年には人事院が「公平で透明感のある能力実績評価の実施」を勧告 した。国は2006年から、新しい公務員制度を施行するとしている。
○一方、文部科学省は、教育改革国民会議答申や中教審答申をうけて教員の人事管理制 度を具体化してきた。優秀教員に対する表彰制度や不適格教員に対する対応は教員評 価の一環をなすものである。
○教員評価や学校評価の背景には、「新しい公共管理」(NPM)とよばれる改革理論が ある。NPMは1990年代にOECD加盟国で取り組まれてきた行政改革を理論化した もので、その特徴は「行政運営に民間企業における経営理念や経営手法(徹底した競 争原理と業績・成果による評価、徹底した顧客重視など)を可能な限り導入」しよう とするものである。東京都の教育改革はNPMに基づく改革である。
○現在、6都府県で教員評価制度が実施されているが、その構造はほとんど同じで、
 東京都の「人事考課制度」が基本型といえる。「新しい教員評価」制度を1950年代の 勤評と比較した場合、@人事管理と人材育成・能力開発を目標に掲げていること。A 自己申告制度と業績評価の二本柱からなること。B教頭を第一次評価者、校長を第二 次評価者としていること。C双方向の評価、コミュニケーションを重視するとしてい ることなどが特徴となっている。
○すでに6都府県で実施されているが、とくに重要なことは、東京都の校長、教員を対 象に行ったアンケート調査で、人事考課制度が教員の意欲を高めたり、教員の力量向 上には役立っていないという結果が出ていることである。しかし一方で、校長の多く が「人事考課制度が学校運営の改善に役立っている」と回答している。このことは、 人事考課制度が目標設定や評価を通して教員に都教委なり校長の方針を浸透させるテ コとして機能していることを示している。ここに教員評価制度の本質がある。
○また、都高教のアンケートでも、「多様な内容を持つ教育活動を少数の管理職が評価 すている」「短期的な効果でははかれない教育活動を期間を限り段階を付けて評価し ている」「生徒という人間を対象とする教育活動を一定の尺度で評価している」など 教育活動に対するさまざまな悪影響が指摘されている。
○さらに人事考課制度の具体的な問題は多々あるが、その際、「成績判定型評価」と教 育実践に対する評価、「能力開発型評価」を厳密に区別して考えていく必要がある。
 より質の高い教育実践を展開するための評価活動を否定してはならない。
○教員の力量を高め、モラールを高めるためには職場の同僚性の回復、父母や子どもに 開かれた学校づくり、教育条件整備は不可欠である。
 
3 今、京都の現場の視点から「新しい人事管理システム」問題を考える/深澤司
 
○「新しい人事管理」システムが各方面で検討されているが、学校現場ではその先取り の動きがある。さしあたって、以下のような問題を指摘したい。
・昨年度、指導力不足教員問題からさまざまな教訓や課題が明らかになった。その中で
 職場の「同僚性」と学習の重要性を痛感した。
・府教委の優秀教員に対する表彰制度は40代後半教員にさまざまな波紋を引き起こして いる。ひしめく40代後半の教務主任から教頭登用へのパスポートではないか。
・八幡市教委が学校の頭越しで、「学校満足度アンケート」を実施した。学校再編・学 校統廃合とリンクしたアンケートである。
・校務分掌に関わる学期ごとの総括も「学校評価」、年度末総括に向けたアンケートの 名称も「学校評価」へと一方的に変更させられた。
・校内人事の希望調書への記入や校長とのヒヤリングの際にも、個人的な「目標」が問 われるようになり、困難度の高い学校や学年、クラスから逃避する傾向が心配される。・子どもや保護者との間のさまざまな問題を管理職に相談した際、逆に「個人責任」が 問われた。 
○京都府も教員評価制度の研究会を設置したが、学校現場では超多忙な中で情報が断片 的にしか伝わらず、全体像が見えにくい状況になっている。
○教員評価では最終的に一人ひとりの「教育実践と教育認識」が問われる。目標・評価 を通した攻撃を押し返すには職場・教職員の団結と教職員が学校の外に足を踏み出す ことが重要である。
○今後の闘いについて、以下の点を要望したい。
 ・何よりもたたかいの大義、たたかいのスローガンの検討
 ・わかりやすい資料を作成すること
 ・「公務労働及び教育労働の特質は何か」について論議すること
 ・教職員評価システムの要件と教職員の賃金制度についての私たちの対案を示すこと
 ・たたかいの教訓から学ぶこと
 
4 討論の概要
 
 以上、2本の報告をうけて討論を行った。主な意見は以下の通り
○教員評価制度では目標として人事管理と資質能力の向上が挙げられているが、東京の
 アンケートにもあるように目標と評価を通して教員を管理統制するところに本質があ る。人事考課は教員の資質能力の向上には結びつかない。
○しかし、同じアンケートで、校長・教員がともに、学校を父母や地域に開くことに消 極的な態度をとっている。この点の解明が必要である。
○若手教職員が教員評価を一定歓迎し、受容する傾向にあることを軽視してはならない。
○人事考課制度でも多面的な評価、プロセス評価、子どもや保護者の意見の尊重などが 掲げられているが、評価主体をどう考えるかは重要な問題である。
○参加という点では高知県で進められている子どもの授業評価が参考になる。
○今日、NPMの広まりとともに評価が重視されている。NPM型の行政改革や行政組 織でもキーになるのはまさに評価である。したがって教員評価問題をNPM型学校改 革の中に位置づけて見ていかないと全体像がわからない。
 
5 おわりに
 
 以上の報告・討論を通して、明らかにされたのは以下の点である。
@教員評価制度のポイントは目標設定と評価を通した人事管理にある。どのような目標 を誰が、どのように設定するかが問われる。
A学校評価・教員評価の背景にはNPM型学校改革がある。評価問題のみに目を奪われ るのではなく、学校組織をどのように変えようとしているのかを見ていく必要がある。
B評価主体は誰なのかを明確にすべきである。また、評価者を誰が評価するのか、評価 者の資質を問う必要がある。
C現在、検討実施されている教員評価はきわめて問題であるが、評価という行為そのも のを否定するのは正しくない。父母や国民の中で学校教育や教師に対する関心が高ま っている中で、教員の力量向上をはかることはきわめて重要な課題である。
D学校職場での同僚性の回復と子どもや父母の学校参加と開かれた学校づくりが重要で ある。
 
 今回の研究会では、とくに教員評価を中心に報告討論を行ったが、あわせて学校評価、学校の組織改革に関する報告があればいっそう問題は深まったように思われる。教員評価問題は今日の教育実践及び学校組織に関わる本質的な問題を提起している。集中的な
論議と方針確立が緊急に求められる。
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