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第3分科会(31日)
 
少人数授業の実態と学力保障
 
中須賀 ツギ子(京都教育センター)
 
はじめに
 
 6月に開催された民主教育推進委員会の「発達・評価・学力」分科会で、少人数授業は習熟度別で、の押しつけが強められ、学級づくりや子どもの豊かな人格の発達を困難にさせられているという深刻な現状が語られた。そこで今回は、何故、今習熟度別授業なのか、現場からの報告をもとに、その背景やねらいについて認識を深め、子どもたちに確かな学力保障するための教育実践や父母・地域と共に民主教育を進める取り組みについて話し合うことにした。
 参加者は、現職6名(小学校6、大学2)保護者1(小1・3・5年の母親)、退職教員4,一般市民(孫が京都市内の小学生)の計12名と、例年通り少人数である。一人ひとり、ていねいな自己紹介と、今の学校の激変ぶりを憂い、微力ながら何ができるのかとの熱い思いのみなぎった討論が続いた。相変わらず、参加者が少ないことに加えて、中・高校からの参加がないことについては、残念であり、今後克服しなければならない課題である。
 
1 基調提案の概要(報告者 山崎 雄介(光華女子大学))
 
 〜何故、今習熟度別授業なのかを中心に〜
 2003年8月、中央教育審議会は、「当面の教育課程及び指導の充実、改善方策について」という審議の中間まとめを発表し、学習指導要領の手直しを始めた。実施後2年も経過しない中での学習指導要領についての修正は、文科省が進める教育改革の失敗を自ら語るも同然の事態だと言えるが、彼等は何ら反省もせず、学校現場がうまくやらなかったのが悪いと言わんばかりの開き直り様である。’98年12月(小・中)、’99年3月(高)の学習指導要領の改訂が、’96年7月の中教審一次答申の「学力は知識の量だけで計るものではない。ゆとりの中で生きる力を」に基づいてなされたことは、記憶に新しい。政府・財界による財政構造改革で、医療・福祉・教育等には極力予算を削ろうとする動きを受けて、いわゆる「ゆとり」と最低基準を目玉にした’98〜’ 99年にかけての学習指導要領改訂となった。しかし、公私間の学力格差の拡大や学力低下が一層進む中で、今回の手直しとなったわけである。
 少人数学級の早期実現を願う切実な要求に対して、文科省は少人数授業を導入、全体としては手を抜きながら一部のエリートを育成するために、できる子について学習内容の上積みは構わないと、習熟度別(ねらいは能力別)授業に向かわせ、できる子、できない子の空間的な分離を低学年の段階からやらせようとしているわけである。すでに習熟度別授業を行っている学校を対象にした全国調査の結果を巧妙に利用しながら、学校現場での話し合いや合意抜きで、一方的に一気に実施を迫ってきている。学力テストの定着、学校評価や学校選択、教育の特区づくり等のねらいと共に、今何故習熟度別授業なのか、その背景や実施の先にあるものをしっかりと把握して、取り組むことが大切である。
 学校間格差を広げるものとして、学力向上フロンティアスクール、スーパー○○ハイエンススクール、構造改革特別区(今年度から)等、そでに全国的に取り組まれている。昨年小5と中2で学力テストを実施、その成績を公開させた上で、個に応じた授業をと迫っている広島県や東京の品川、荒川区での動き等に注目する必要がある。平均点を上げるための、能力別授業で学校内でできる子優先の授業が進んでいけば、学校が学校でなくなってしまうわけで、父母・地域と共に民主教育を守る取り組みや運動を進めていくことが求められている。
 
2 報告の概要
 
@ 「少人数授業は今・・・・」A小の実態
 
 新年度から少人数授業を、習熟度別(発展、標準、基礎コースにグループ分け)で、単元毎にグループを編成して、低学年(2年生)から、国語、算数の2教科で行うようにと言われ、様々な困難、矛盾を抱えながら、現在に至っている。
 数年前までは、市教委から出された方針について各学校の実態に合わせて十分に検討して現場から意見をあげれば、少なくとも耳を傾けてもらえたが、現在はいくら正当な意見を言っても効果はなく、方針通りにやらせようとする閉塞的な関係。管理職は市教委あるいは府教委の伝達機関としか言えない様な学校が大半である。
 単元毎に学習グループを編成することについては、とうてい無理なので、全員で反対。いくつかの単元をまとめて、2年生から行うことについては無理だと言っても、聞き入れてもらえずにスタートした。教室の不足は、春休みの職員作業で特別教室を利用できるように、中にあった物を動かしてにわかづくりで間に合わせたが、大きなテーブルを机に、椅子に座ったら足はブラブラのまま、板書にいたっては利用しづらく・・・・といった状態に。2年生はクラス替えしたばかりなのに、国語と算数は大半の子が担任以外の先生から教えてもらうため、少人数授業が始まる前に、頭痛や腹痛を訴える子が増え、保健室もパニック状態だったと言う。その上、どの学習グループにするかは、子どもに選択させるので(市教委の方針)、各グループの人数にバラツキが出てきて、学級の人数よりも多いグループも出現、何とかできないかとの教師の意見無視のまま、授業参観日を迎え、保護者が驚いて意見をあげてようやく手直し(2学期から)がなされた。さらに府教委の方針で小中連携授業の学校となり、中学校から6年生の体育の指導に教師が配置され、6年の担任は空き時間に、2年生の算数のあるグループに、日替わりで授業に行くという異常な事態になった。学年の先生の反対意見は通らず、保護者からの抗議で2学期から日替わり授業は中止となった。学習グループについて、「基礎グループにはできない者が行くの?」と子どもたちから聞かれることもしばしばあった。管理職は、「山に登るにもいろいろな登り方がある」と言うが、子どもたちへの解答にはとうていならない。今まで学級の中で教え合い、解ったときには喜び合ったような感動的な授業づくりが困難になっている。保護者にしてみれば、競争、低学力が叫ばれる中、一人ひとりていねいに見てもらえるのでは、子どもの学力保障をしてくれるのでは、との期待も大きかった様だが、実際には、一グループの人数は24〜5名、40名ぎりぎりの学年では30名以上で、少人数とは言い難い実態とわかり、少人数学級で落ち着いて学ばせたいという声に変わってきている。一方教師にとっては、打合せの時間の確保、欠席した子や低学力の子への補習ができにくい(担任が教えるとは限らないので)、気になる子への適切な指導がやりにくい(1、2時間目は、学級を解体して国語、算数の授業に)、学級内でのじっくりとした交流や取り組みがなかなかやれない・・・・といった悩みや疑問(どうして今習熟度別授業なの)を抱えながら、学校での日々を送っている。
 
AB校からの報告
 
 数年前にA校からB校(隣の市に)に転勤された先生は、学校の中だけでは子どもの学力保障ができにくいので、保護者との結びつきを強める中で、教材の組み替え、宿題プリントやテストプリント(手づくり)の活用など、子どもの側に立った実践を積み重ねていることを報告。教科書の問題点についても保護者に解ってもらう様に絶えず働きかけていること、校区で教育懇談会を開いて、今の学校教育をめぐる状況等についていっしょに考え合い、おかしいことはおかしいと学校に対して意見をあげられる様な力がつく様にしている。管理が厳しいので、市教委から降りてくる様々な指示、方針等の間違いを全てはね返すところまで教師の力は及ばないけれど、その分保護者が頑張ってくれるので、とても力強い。B校の場合は、A校ほど管理は厳しくないが、昨年高学年の担任をした時、少人数授業に反対したら、今年度は低学年の担任に。自由な雰囲気の中で教育実践ができた頃とは比べようもないが、厳しい時だからこそ、子どもたちの心に残る素晴らしい授業をつくり出していきたいと思う。〜3年生、鉱区の地図づくりの実践報告に参加者一同は心を奪われ、授業の中身にまで、行政は入ってこれないことを確認しあった。
 
3 討論。交流の中から
 
○少人数授業になって、教室不足以外で教具教材はどうなっているのか。
●同じ時間に同じ教科の授業を行うので、教材や教具は大幅に不足して、不自由な限りである。超多忙な日々の中で手づくりの教材等を準備する余裕もない状態。予算を増やしてほしい。
○評価はどのようにやっているのか。
●学級担任が、各グループに分かれた子どもの分を集めて通知票をつける。学級懇談や家庭訪問で、子どもの具体的な様子や課題については、話しにくい状態になってしまった。
○他校の様子は?
●A校は突出、教科は算数だけ、国語だけの学校もあるし、学年も3年生から、4年生以上とまちまちであることが夏休み中の少人数加配の先生の研修のときに解かった。管理職は、他校もやっているのでと押し付けてくることが多い。文科省のやり方とまったく同じだ。
◎かつての勤評・学テの頃の学校の状況とよく似ているが、今は職場で闘う力がないので大変だ。
◎まさに、教育の危機的な状況の中で、子どもも先生も苦しんでいるのがよくわかった。私たちにできることは何か、探して行きたい。
◎京都市内では、学校によって予算配分がまちまち、特別区を作る反面、要求しても予算措置をせず、子ども達に不自由させている学校のことをしっかりつかんで欲しい。
◎戦後間もない頃、子どもの学力をつけるために能力別の学習集団で授業を行い、成果を挙げたことを思い出したが、組合が強くて、民主的な学校だったからこそうまくいったのだと思う。
 
〜教職員組合の果たす役割についても議論したが、省略〜
 
◎先の見えにくい厳しい状況にいても、現場でがんばっている先生方の明るさ、たくましさに、力づけられる思いがする。
◎子どもたちを守り、学校に民主主義の声を、保護者とともにあげていこう。
◎「少人数授業」をより生かす方法はないのか、近隣で行われているやり方などについて検討してみることも大切ではないか。
◎学級の枠を超え学年集団で、子どもの学力保障のための方法を探る機会ができたことに着目して、可能性を追求することはできないだろうか。
 
4 まとめ
 
 厳しい中で、展望をつくるために
 
◎職場の中での合意を広げていく工夫
◎保護者との交流・連携〜学級通信・学年通信や学級懇談会のほかにも、メーリングリスト、ホームページの立ち上げなど、方法はいろいろあるのではないか。
◎’90年代初めの頃から、新学力観が話題になっり、それまでの「日の丸・君が代」や学力テスト等の攻撃から、授業のプロセスに子どもが直接関わったり、観点別評価や評定等、日常の学校生活に関わる中身での取り組みに課題が移っているので、職場を基礎に地道に粘り強く課題の克服に向けた取り組みを積み上げよう。
◎学校選択については、最初は子どもや保護者側に選ぶ自由があっても、定着すれば人気のある学校については、逆に学校が子どもを選ぶようになることは明白である。急速に変化する学校現場、地域の中で、子どもたちの豊かな発達を保障するために、まず自分に何ができるかから出発して、教育について、平和について語り合う仲間づくりへと広げていくことが求められている。
◎この際、人間の発達についての多様性や可能性等についての学習を行い、早い時期から能力別でグループ分けすることの是非についても、発達の観点から捉えなおす力をつけていこう。
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